水平線

2005年11月13日 小説 随筆
第2話 「あの日の約束」

目覚ましの轟音で俺は叩き起こされた。
あまりにも暴力的な機械音である。。
あの後、レナの家を後にしてからの
記憶は定かではない。パンだけ胃に流し込
むと俺は大学へ向かった。
地下鉄の中。
満員電車。化粧を周りを気にせずに
せっせとするギャル風の女子高生。
バーコードへアのくたくたの鞄を抱えて
いるサラリーマン。
何もかも鬱蒼とした気分になる。
しばらくの辛抱の後俺はここ、代官山
を抜ける。そして俺の明昌大学のキャンパ
スがいつもと変わらないたたずまいで
俺たちを迎える。
 
 「一体これからどうレナと接すれば
いいのだろう。」俺の頭の中はその言葉
で満たされていた。ほかの事が入り込む
余地はなかった。俺のメモリーは少ないのだ。
 食堂まで行くと、直哉が何事もなかったか
のように声をかけてきた。「おっす。ハル。
」満面の笑みである。これはナナミとうまく
いったのだろうか。ふとそんな考えが横切る。
「おう。」俺は無愛想に言った。「どうした?
なんか顔色わるいぞ。」それはそのはずだ。
あの後家に帰ったのはAM5時だ。
「直哉、今一人にしてくれねーか?」
俺は突き放すように言った。今はとにかくレナ
の事が最優先だった。「せっかく心配して
やってんのによ。」直哉は舌打ちしてロビーへ
消えていった。
 すべての講義が終了すると、俺はレナへ電話
した。3回目のベルでレナは出た。「おう。
俺、春樹。今日おまえの後をつけてないか
はりこむよ。」俺は抑揚のない声でいった。
しかし低音で響くBASSの様なトーンだ。
「ありがとう。気をつけてね。じゃまた
後で。」ツーツー虚しい電子音だけを残して
レナは電話を切った。なにか急いでいる感じ
だった。「おかしいな・・」俺は嫌な予感
を感じ取った。急いで、彼女の部室へ向かった。
案の定、ほかの部員に聞いてみると今日は部活に
出ていないらしい。
 「ちっ、なにやってんだ。」俺は思考をマッハで
回転させて走った。あいつがいきそうなところ。。
渋谷。六本木。五反田。巣鴨。様々な風景が目に
スクリーンのごとく映える。
だがとりあえずいつもの溜まり場クラブ
「ASH」へ向かった。クラブへ行くと今日のイベントの
準備が行われていた。知り合いのDJさんにレナは
いるかと聞いたが見てないという。
ゲーセン、109いろいろ回って俺は「あそこしか
ねーか。」と呟いた。下北沢のはすれのほうにある
河原だ。
昔、ここでレナに俺は告られた。まだ大学1回のころだ。
なぜかは分からないがそこにレナがいるきがしたのだ。
「春樹クンのことをずっと見てたの。」あん時の甘い
言葉が交錯する。俺がどうしてOKをださなかったって
みんな思うだろう。だって相手は大学のアイドル的
存在だったのに。俺にはその時好きな人がいた。
というより付き合っていた。しかしその人はまだまだ
現在に至っても認知されていないSMA(脊髄性筋萎縮症)
という病気に俺が高校2年の時にかかった。
 彼女の名前は知子と書いてともこと読む。彼女とは
俺が中2のころに出会って、近所づきあいからいつしか
彼女に惹かれるようになった。透き通るような大きい瞳。
眩しい笑顔。彼女はバレー部のアタッカーではつらつ
としていた。高校1年なると知子は島根の中で一番の
強豪、大安寺高校へ入学した。俺はというと。
俺も彼女と同じ高校にはいりたくて偏差値65という
難関の大安寺に入った。必死に勉強して念願かなって
俺は彼女に報告するときに情けねえことに涙してしま
った。いまでは儚い思い出だ。彼女はしだいに弱って
いった。右手が動かなくなり、左手が動かなくなった。
俺は見ていられなかった。。知子とずっと一緒に笑って
いたかったのに。この憤りを一体どこへぶつければいいのか。。
 そして彼女は最先端の医療をうけるためアメリカへいった。
俺はバイトしまくって奨学金もすべて彼女の治療費のために
送金した。そして治療の成功の是非の期限の3年後、俺が
大学2年の冬に再会しようと約束をしたのだ。
 だから俺は、レナの告白を断った。そう、俺は知子との約束
をこの左胸に刻み込んでいるから。
-------------
 河原にいくとやはりレナがいた。彼女は寝そべっていた。
まるで何も心配事のない赤ん坊のような寝顔で。俺は安堵
のせいか急に疲労で崩れ落ちた。
 「おい、レナ!!おきろよ。」
レナは寝ぼけなまこで俺のほうを見る。まだ事態が飲みこめて
ないようだ。「おまえ、こんなとこで何してんだよ部活じゃ
なかったのか?」俺は苛立ちを覚えた。
「いいの。今日は体調わるいから。それより、春樹クンちゃんと
見張っててよ。」「分かってる。それじゃ俺は遠くから見守って
から早く家へ帰れよ。」

 俺は普段のレナと違う様子にただ戸惑うばかりであった。
 

               to be continued....

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