---------------------
6−2
その日の朝は、なんとも目覚めが悪かった。
俺の探していた答え。それをみつけるために
今日も一歩を踏み出す。夢を追いかけていた
あのころ。そんな中で、何かを失い置き忘れ
きてしまった。
「おい、よそ見してんじゃねーよ。」
汗だくのヨシトは、俺にいちいち難癖をつける。
「あぁ。わるい。」
「ぼーっとしてさぼってんなら独房にいくか?」
「それだけは勘弁してください。」
やっと朝の仕事が終わる。昼休憩の時に、俺と
ヨシトはお互いの飯のうんちくを語っていた。
そんな中、前のいじめの主犯の男。名前は確か
三原だった気がする。その三原がなにやら
こっちをみて周りの連れとひそひそ話しては
俺たちのほうをちらちらと一瞥する。
ヨシトはオーラをもつ男だったのでム所にはいっ
た時から目立っていた。どうやら三原はそれが
気に食わないらしい。
「さっきからじろじろ見てきてうっとしーな。
まずい飯がますますまずくなる。」ヨシトは飄々
とした表情でそうもらす。
「気にすんなよ。」
そんな感じで何事もなく数週間が過ぎた。
いつもの仕事をやっていると、看守がまた鬼の声で
叫んだ。「誰だ!!!金庫の金を盗んだやつは!!!」
どうやら刑務所の事務の金庫の金が盗まれたらしい。
すると、三原が看守に言った。
「そこにいる、ダンスおたくの黒川君がやったと思います。」
ヨシトにいっせいに全員の視線が注がれる。
俺も思わずヨシトをみる。
ヨシトは、例の飄々とした表情で言った。
「金?俺は盗んでないぜ。」
そういったにもかかわらず看守はヨシトの腕をつかむ。
二人係でずるずると引きずる。
「おい!俺は金なんかぬすんでねーって!!!」
「おまえのうわさは流れてるんだ。タバコをほかの囚人
に流し込んで金儲けしてるそうじゃないか?おまえが
犯人なのは疑いようがないんだよ。」
「なんでそれとこれが関係あるんだよ!!」
ヨシトの声はどんどん遠ざかっていく。
------------------------
呆然と立ち尽くす俺。
ヨシトは独房に2週間入るという罰則が課されるらしい。
俺はなにもかもふに落ちない思いの中でまた一人になった
部屋の中で頭をかかえる。
鈍い痛みがまた再発する。くそおやじに刺された瞬間がまた
フラッシュバックする。俺はその度に体全体が震える。
「ちくしょう・・・・」
6−2
その日の朝は、なんとも目覚めが悪かった。
俺の探していた答え。それをみつけるために
今日も一歩を踏み出す。夢を追いかけていた
あのころ。そんな中で、何かを失い置き忘れ
きてしまった。
「おい、よそ見してんじゃねーよ。」
汗だくのヨシトは、俺にいちいち難癖をつける。
「あぁ。わるい。」
「ぼーっとしてさぼってんなら独房にいくか?」
「それだけは勘弁してください。」
やっと朝の仕事が終わる。昼休憩の時に、俺と
ヨシトはお互いの飯のうんちくを語っていた。
そんな中、前のいじめの主犯の男。名前は確か
三原だった気がする。その三原がなにやら
こっちをみて周りの連れとひそひそ話しては
俺たちのほうをちらちらと一瞥する。
ヨシトはオーラをもつ男だったのでム所にはいっ
た時から目立っていた。どうやら三原はそれが
気に食わないらしい。
「さっきからじろじろ見てきてうっとしーな。
まずい飯がますますまずくなる。」ヨシトは飄々
とした表情でそうもらす。
「気にすんなよ。」
そんな感じで何事もなく数週間が過ぎた。
いつもの仕事をやっていると、看守がまた鬼の声で
叫んだ。「誰だ!!!金庫の金を盗んだやつは!!!」
どうやら刑務所の事務の金庫の金が盗まれたらしい。
すると、三原が看守に言った。
「そこにいる、ダンスおたくの黒川君がやったと思います。」
ヨシトにいっせいに全員の視線が注がれる。
俺も思わずヨシトをみる。
ヨシトは、例の飄々とした表情で言った。
「金?俺は盗んでないぜ。」
そういったにもかかわらず看守はヨシトの腕をつかむ。
二人係でずるずると引きずる。
「おい!俺は金なんかぬすんでねーって!!!」
「おまえのうわさは流れてるんだ。タバコをほかの囚人
に流し込んで金儲けしてるそうじゃないか?おまえが
犯人なのは疑いようがないんだよ。」
「なんでそれとこれが関係あるんだよ!!」
ヨシトの声はどんどん遠ざかっていく。
------------------------
呆然と立ち尽くす俺。
ヨシトは独房に2週間入るという罰則が課されるらしい。
俺はなにもかもふに落ちない思いの中でまた一人になった
部屋の中で頭をかかえる。
鈍い痛みがまた再発する。くそおやじに刺された瞬間がまた
フラッシュバックする。俺はその度に体全体が震える。
「ちくしょう・・・・」
水平線 第6話 「旅立ちのとき」
2006年1月2日 小説 随筆 コメント (2)----------------------
今までに経験したことのないほどの長い夜明け
と共に俺は殺風景なベッドにいつの間にか、
横たわっていた。
いつもとなにか違う。違和感。
いつもいたあいつがいない。ぽっかりとした空間
が無常にも広がる。
「知子。」俺はなぜかそうつぶやいた。
今までになく会いたかった。
もうこのム所からも出たかった。
ただ会いたかった。
-----------
春樹へ。
知子の手術は来週の火曜日に、私が執り行うことに
した。助手にはSMAに非常に堪能したラッセルを
チームに組ませる。安心してくれたまえ。
私は、君が今刑務所にいるということを聞いた。
君のことだから何か理由があってのことだろう。
だが決して、人を殴ったということはどんなことであれ
許されないことだ。罪をしっかり償いでてきてくれ
そして知子と再会するんだ。
知子と春樹の幸せを祈る。
コヴィーより
最後まで読むとまたぼろベッドに身を投げ出した。
「なぁ、一体いつまでこんな生活続くんだよ。
トモ。おまえに会いてーよ。
早くおまえと話したい。」
ついでてしまう独り言。何に対し俺は言葉を発している
んだ。手紙を握り締めると何故かとめどない涙が滲んで
きた。理由なんかない。ただ、この半年いろいろあった
ことが一片に巻き戻され切り刻まれ、俺の心に収まり
きらなかった。それが涙としてこぼれ落ちたんだ。
「ごちゃごちゃうるせーよ。」
ふいに誰かが投げやりに言った。
俺は聞き覚えのある声だと思い、ゆっくりと頭をもたげる。
それは。ヨシトだった。
「なーにが会いたいだ。バカヤろ。恋愛ドラマの見すぎ
だっつーの。」ヨシトはジャージ姿に、ドレッドばっさり
きって潔いベリーショートになっていた。
「おまえ、どーしてここに?」俺は独り言を聞かれていた
気恥ずかしさよりも驚きのほうで感情は揺れていた。
「うっせーよ。ただな。これみてみ。」
そういってヨシトが取り出したものはタバコのやまだった。
「へっへっへ。これで一儲けすんのよ。」
何か分からないが犯罪を起こして刑務所に入っているヨシト
が楽しそうに見えた俺は、こいつの神経はどうなっているんだ
と思ってしまう。
「なんでかしんねーけどよ。おまえと相部屋になっちまったんだ
よ。だりーわ。正直。しかもおまえ。前いたやつ自殺したって
うわさがム所中でたってるって話じゃねーか。
ほんと俺はびんぼーくじ引かされたぜ。」
ヨシトはベッドにどかっと身を投げだした。
捕まった理由は聞かないことにした。少なくとも今は。
そんなわけでヨシトとのム所生活が始まったのだ。
ある日、午後の仕事を終えて俺はくたくたに疲れきって
いた。終礼後、消灯され俺は疲れきって、まどろんでいた。
しかしなにやら音がするのだ。
ぎしっ。ぎしっ。真っ暗で最初は分からなかったが
ヨシトがなにやらしている。
「なんだよ。。こっちは疲れてるのに。」俺は喉まで
その言葉がでかかった。がその次の瞬間その言葉はどこかへ
消え逆に賛美の言葉が飛び出してしまった。。
「すげえ!!!!」
前に少しみたことがあるが、ヨシトはまたブレークダンスを
している。見事な技のコンビネーション。そして回転。
華麗だった。鍛えられた二の腕を軸に足を旋回させる。
ヨシトは汗をびっしょりカイテその一滴が光ってみえた。
練習が終わった後やつに聞いた。
「なぁ。なんでそこまで練習してんだ?」
ヨシトは看守に見つからないようにタバコに火をつけて
黙って寝てしまった。
俺は人を起こしておいて何も言わないヨシトにむかついて
それ以上何もいわずに眠りについた。
to be continued....
今までに経験したことのないほどの長い夜明け
と共に俺は殺風景なベッドにいつの間にか、
横たわっていた。
いつもとなにか違う。違和感。
いつもいたあいつがいない。ぽっかりとした空間
が無常にも広がる。
「知子。」俺はなぜかそうつぶやいた。
今までになく会いたかった。
もうこのム所からも出たかった。
ただ会いたかった。
-----------
春樹へ。
知子の手術は来週の火曜日に、私が執り行うことに
した。助手にはSMAに非常に堪能したラッセルを
チームに組ませる。安心してくれたまえ。
私は、君が今刑務所にいるということを聞いた。
君のことだから何か理由があってのことだろう。
だが決して、人を殴ったということはどんなことであれ
許されないことだ。罪をしっかり償いでてきてくれ
そして知子と再会するんだ。
知子と春樹の幸せを祈る。
コヴィーより
最後まで読むとまたぼろベッドに身を投げ出した。
「なぁ、一体いつまでこんな生活続くんだよ。
トモ。おまえに会いてーよ。
早くおまえと話したい。」
ついでてしまう独り言。何に対し俺は言葉を発している
んだ。手紙を握り締めると何故かとめどない涙が滲んで
きた。理由なんかない。ただ、この半年いろいろあった
ことが一片に巻き戻され切り刻まれ、俺の心に収まり
きらなかった。それが涙としてこぼれ落ちたんだ。
「ごちゃごちゃうるせーよ。」
ふいに誰かが投げやりに言った。
俺は聞き覚えのある声だと思い、ゆっくりと頭をもたげる。
それは。ヨシトだった。
「なーにが会いたいだ。バカヤろ。恋愛ドラマの見すぎ
だっつーの。」ヨシトはジャージ姿に、ドレッドばっさり
きって潔いベリーショートになっていた。
「おまえ、どーしてここに?」俺は独り言を聞かれていた
気恥ずかしさよりも驚きのほうで感情は揺れていた。
「うっせーよ。ただな。これみてみ。」
そういってヨシトが取り出したものはタバコのやまだった。
「へっへっへ。これで一儲けすんのよ。」
何か分からないが犯罪を起こして刑務所に入っているヨシト
が楽しそうに見えた俺は、こいつの神経はどうなっているんだ
と思ってしまう。
「なんでかしんねーけどよ。おまえと相部屋になっちまったんだ
よ。だりーわ。正直。しかもおまえ。前いたやつ自殺したって
うわさがム所中でたってるって話じゃねーか。
ほんと俺はびんぼーくじ引かされたぜ。」
ヨシトはベッドにどかっと身を投げだした。
捕まった理由は聞かないことにした。少なくとも今は。
そんなわけでヨシトとのム所生活が始まったのだ。
ある日、午後の仕事を終えて俺はくたくたに疲れきって
いた。終礼後、消灯され俺は疲れきって、まどろんでいた。
しかしなにやら音がするのだ。
ぎしっ。ぎしっ。真っ暗で最初は分からなかったが
ヨシトがなにやらしている。
「なんだよ。。こっちは疲れてるのに。」俺は喉まで
その言葉がでかかった。がその次の瞬間その言葉はどこかへ
消え逆に賛美の言葉が飛び出してしまった。。
「すげえ!!!!」
前に少しみたことがあるが、ヨシトはまたブレークダンスを
している。見事な技のコンビネーション。そして回転。
華麗だった。鍛えられた二の腕を軸に足を旋回させる。
ヨシトは汗をびっしょりカイテその一滴が光ってみえた。
練習が終わった後やつに聞いた。
「なぁ。なんでそこまで練習してんだ?」
ヨシトは看守に見つからないようにタバコに火をつけて
黙って寝てしまった。
俺は人を起こしておいて何も言わないヨシトにむかついて
それ以上何もいわずに眠りについた。
to be continued....
第5話 シーン7〜8
------------------
俺の相部屋のいじめられっ子は
いつも通りどこに視線を合わせているかも
わからず青白い顔で昼飯を食べていた。
食器に顔を近づけて犬のような汚い食べ方をしている。
俺は水をいれようとコップを取り席を
たつ。すると、いじめられっこの周りにぞろぞろと
人だかりがでてまた裏へと連れ出されている。
アザだらけの腕を引っ張られて。
看守もきづいているがやはり見て見ぬふりだ。
俺は傍観者。俺のしったこっちゃない。
そう思い、食器を返却口へと戻すと振り返ることも
なく自分の豚箱へ戻る。それが俺の日課だった。
あいつを助けるとかそんな思考はなかった。
部屋に戻って俺は手紙を読んでいた。手術の経過
などに俺は眉間に皺を寄せながら頭をかきむしる。
ぽとっ。この世で意識しなければおれ以外の人間には
聞き取れないほど微かな音をたててなにやら物が落ちる
のを聞き取る。
俺は音のしたほうへ近づく。
音の主は、茶色い封筒だった。埃をかぶっている
その茶封筒は数週間前にはあったものと思われる。
「これはなんなんだろう。」俺は妙な心境に胸の中が
ざわつく。誰も見ていないのを確かめると俺は急いでその
茶封筒をはさみで切り出す。
ひらひらと中身が落ちる。
その文面は。。
なんだ。。これ。マジかよ。。
俺は思わず声を漏らしそうになる。
「こつっ
こつっ。」看守が見回りに来る。俺は急いで紙を
ポケットに押し込む。
看守が去って行くのを見計らうと俺は、急いで食堂
へ引き返す。
裏にも回るが、人影がない。寂しく木の葉が舞っている
だけ。俺の囚人の知り合いに聞いても知らないという。
一歩遅かったか。。
俺は脱力感に襲われるのを感じた。
午後の共同作業が開始されてもやつの姿はない。
終礼になってようやくいじめられっこの話が出た。
看守は鬼のような声でいった。「どこにいるんだ!!!
さぼってんじゃねーぞ!!!」
ざわめく中ひきつった表情で、いじめの主犯の男が
看守になにやら言った。
看守は表情がゆがんだ。看守らは一目散に表へ飛び出ていった。
俺はその後を息を切らしながら必死で追った。
そしてたどり着いたところでまっていたものは。。。
やつの力なく垂れ下がった塊と化した死体だった・・・・
独房の前にある昔拷問に使って
いたという絞首台を使ってやつは自殺した・・・・・
すべては後の祭りだった。さすがにいじめていたやつも
自責の表情を浮かべている。
俺は、やつの無残な死を無駄にすることはできないと
思い、例の茶封筒を看守に渡して読むようにと言った。
終礼でその文面は読まれた。
それは遺書としてやつが書いたものだった。
あいつは婦女暴行で捕まった。しかもまだ無力な
少女を狙ったというきわめて残忍な事件だ。
それが俺たちのあいつを認識する唯一の方法。
でもやつの遺書でやつの心の中が叫ばれていた。
「僕は、やってない。僕は婦女暴行で捕まったけど
あれは、同じ高校のやつらがやった後に僕を呼び出し
僕がしたように責任をなすりつけたんだ!
母親も父親も妹も愛想をつかし僕を、粗大ごみかのような
目でっみて嘲笑した。こんな息子を育ててきたのかという
軽蔑の目だ。僕は無実で潔白だ。
少なからずともまじめにいきてきた18年間だった。。
でも、刑務所でも暴行されもう生きるのに疲れました。」
そう書きなぐるようにやつは遺書に記した。
その文面の発覚により、やつの地元の長野県警のずさんな
捜査体制が浮き彫りになり、警視庁は、再捜査グループを
新たに作り、すでに解決したとされるこの連続婦女暴行
事件の再捜査が行わるに至った。
そのかいあってか少女の遺体
を解剖班が緻密に捜査したところ
別のDNAがでてきたという。
やつのDNA
は一部から高濃度で検出されたため、さまざまな箇所から
とても微量に出てきたため見失っていた
DNAと違い第三者により意図的に少女に
やつの体液を付着させた。という見解をだしやつは
冤罪だということがわかったのだ。
やつの遺書で記されていた責任をなすりつけたというグループ
に職務質問をしたところ自首したそうだ。
ぽっかりと空白になった俺の相部屋。
明後日には新しいやつがはいってくるらしい。
いつもぶつぶつ何かを呟き恐ろしい目をしていたやつは
自分の潔白を証明するだけの力が残っていなかったんだろう。
現実を目の当たりにした俺。見て見ぬふりをしてきた俺は
急に自分自身が情けなく感じた。
俺は偽善者ぶるきもないが、傍観者でいつづけることで
あいつを殺してしまった。。そんな思いが頭をもたげる
ようになった。ム所にはいってサイアクの夜明けを
うずくまったまま迎えた。
to be continued....
------------------
俺の相部屋のいじめられっ子は
いつも通りどこに視線を合わせているかも
わからず青白い顔で昼飯を食べていた。
食器に顔を近づけて犬のような汚い食べ方をしている。
俺は水をいれようとコップを取り席を
たつ。すると、いじめられっこの周りにぞろぞろと
人だかりがでてまた裏へと連れ出されている。
アザだらけの腕を引っ張られて。
看守もきづいているがやはり見て見ぬふりだ。
俺は傍観者。俺のしったこっちゃない。
そう思い、食器を返却口へと戻すと振り返ることも
なく自分の豚箱へ戻る。それが俺の日課だった。
あいつを助けるとかそんな思考はなかった。
部屋に戻って俺は手紙を読んでいた。手術の経過
などに俺は眉間に皺を寄せながら頭をかきむしる。
ぽとっ。この世で意識しなければおれ以外の人間には
聞き取れないほど微かな音をたててなにやら物が落ちる
のを聞き取る。
俺は音のしたほうへ近づく。
音の主は、茶色い封筒だった。埃をかぶっている
その茶封筒は数週間前にはあったものと思われる。
「これはなんなんだろう。」俺は妙な心境に胸の中が
ざわつく。誰も見ていないのを確かめると俺は急いでその
茶封筒をはさみで切り出す。
ひらひらと中身が落ちる。
その文面は。。
なんだ。。これ。マジかよ。。
俺は思わず声を漏らしそうになる。
「こつっ
こつっ。」看守が見回りに来る。俺は急いで紙を
ポケットに押し込む。
看守が去って行くのを見計らうと俺は、急いで食堂
へ引き返す。
裏にも回るが、人影がない。寂しく木の葉が舞っている
だけ。俺の囚人の知り合いに聞いても知らないという。
一歩遅かったか。。
俺は脱力感に襲われるのを感じた。
午後の共同作業が開始されてもやつの姿はない。
終礼になってようやくいじめられっこの話が出た。
看守は鬼のような声でいった。「どこにいるんだ!!!
さぼってんじゃねーぞ!!!」
ざわめく中ひきつった表情で、いじめの主犯の男が
看守になにやら言った。
看守は表情がゆがんだ。看守らは一目散に表へ飛び出ていった。
俺はその後を息を切らしながら必死で追った。
そしてたどり着いたところでまっていたものは。。。
やつの力なく垂れ下がった塊と化した死体だった・・・・
独房の前にある昔拷問に使って
いたという絞首台を使ってやつは自殺した・・・・・
すべては後の祭りだった。さすがにいじめていたやつも
自責の表情を浮かべている。
俺は、やつの無残な死を無駄にすることはできないと
思い、例の茶封筒を看守に渡して読むようにと言った。
終礼でその文面は読まれた。
それは遺書としてやつが書いたものだった。
あいつは婦女暴行で捕まった。しかもまだ無力な
少女を狙ったというきわめて残忍な事件だ。
それが俺たちのあいつを認識する唯一の方法。
でもやつの遺書でやつの心の中が叫ばれていた。
「僕は、やってない。僕は婦女暴行で捕まったけど
あれは、同じ高校のやつらがやった後に僕を呼び出し
僕がしたように責任をなすりつけたんだ!
母親も父親も妹も愛想をつかし僕を、粗大ごみかのような
目でっみて嘲笑した。こんな息子を育ててきたのかという
軽蔑の目だ。僕は無実で潔白だ。
少なからずともまじめにいきてきた18年間だった。。
でも、刑務所でも暴行されもう生きるのに疲れました。」
そう書きなぐるようにやつは遺書に記した。
その文面の発覚により、やつの地元の長野県警のずさんな
捜査体制が浮き彫りになり、警視庁は、再捜査グループを
新たに作り、すでに解決したとされるこの連続婦女暴行
事件の再捜査が行わるに至った。
そのかいあってか少女の遺体
を解剖班が緻密に捜査したところ
別のDNAがでてきたという。
やつのDNA
は一部から高濃度で検出されたため、さまざまな箇所から
とても微量に出てきたため見失っていた
DNAと違い第三者により意図的に少女に
やつの体液を付着させた。という見解をだしやつは
冤罪だということがわかったのだ。
やつの遺書で記されていた責任をなすりつけたというグループ
に職務質問をしたところ自首したそうだ。
ぽっかりと空白になった俺の相部屋。
明後日には新しいやつがはいってくるらしい。
いつもぶつぶつ何かを呟き恐ろしい目をしていたやつは
自分の潔白を証明するだけの力が残っていなかったんだろう。
現実を目の当たりにした俺。見て見ぬふりをしてきた俺は
急に自分自身が情けなく感じた。
俺は偽善者ぶるきもないが、傍観者でいつづけることで
あいつを殺してしまった。。そんな思いが頭をもたげる
ようになった。ム所にはいってサイアクの夜明けを
うずくまったまま迎えた。
to be continued....
第5話(4)〜(6)
----------------------
嘉人は何事もなかったかのようにダンスの練習へ
戻っていった。
ざわめく街が眠りにつくころ俺は起きだす。
狂った街が平和になるころ俺は革命を起こす。
俺はもう走り出していた。
渋谷センター街の裏路地にある風俗街だ。
俺は客引きの青年をおしのけて中に入って
ある男の前まで来ていた。
そして俺はその男を力の限りぶん殴った。
男は女とじゃれあっている中で、情けないことにひっくり
返った。
「いやぁあん時は、ご丁寧に。」俺は力いっぱい拳をふりあげて
もう一発そのオヤジを殴った。
オヤジは情けない面でもうやめてくれといわんばかりに
膨れ上がった下腹を突き出した。
「あんときの痛みはまだわすれてねーぞ!こらぁ!」
俺は完全に怒りを噴出させていた。
「立てやこらぁ!!!!」
その風俗店は徐々に騒ぎが大きくなるにつれ人だかりが
できてきた。
「・・・ゆ・ゆるしてくれ」オヤジは泣きそうな声でそう
懇願した。
「ゆるしてくれだと!?ふざけんな!俺は殺されかけだ」
俺は力いっぱい殴り続けた。オヤジはサンドバッグのように
崩れた。
そう。レナが視界から消えてすべてが灰色に化したときに
俺を刺したオヤジがいうまでもなくこいつだ。
「そろそろ、自首したらどーですか。
教授。」俺は怒りをかみ殺して言った。
周りのものや風俗嬢たちは自体が飲み込めず震えている。
「もうわかってんだよ。あんたが相沢 レナをつけまわして
俺を刺したこともね。」
そういって俺は一枚の紙を出した。レナのケータイに残って
いた着信履歴から割り出した教授のケータイ履歴と、教授
が以前からレナにセクハラしていた証言、そしてこれが一番
悲痛だった。俺がレナを泊めた時に彼女から語られた言葉達。
彼女は分かっていたのだ。誰に付けまわされているかも。
それを当たり障りのない表現で喩えていたが俺は徐々に
繋がっていった。そして嘉人から教授の話を聞いて俺は
確信を得た。
「おまえ。。明昌大学の生徒だろ。こんなことをして
いいとおもってるのか・・・」教授は情けない捨て台詞
を吐いた。
俺は、警察に事情聴取を受けることになった。
センター街の路地裏の飲食店で起きた暴力事件。
翌日の読買新聞の一面の隅にはそうのっていた。
そして俺は逮捕された。
スーツケースは押収された。
そして、教授のセクハラ、猥褻行為での検挙も決まり
追加の余罪として大学内での横領事件も新たに浮上した。
これは後日家宅捜索で分かったことだが、
教授のアパート宅では
何千もの卑猥な動画がでてきたそうだ。
レナの写真もたくさん押収された。
レナが性的関係を強要されていたことも新たに分かった。
これだけ腐ったやつを殴ったわけだが、俺も傷害罪で
拘留された。
「ほんと、情けねえよ。」俺は相部屋の豚箱に押し込まれ
られながら言った。
すでに入ってるやつは、婦女暴行で捕まったやつだ。
女や弱いものを狙ったやつ、変態、痴漢などで捕まった
囚人は決まっていじめの対象となる。
俺の相部屋のやつも食事の時間などに大男に連れて行かれて
いった。悲鳴が聞こえたが俺にはどうすることもできなかった
し、捕まえられた卑劣な行為を思うとさほど胸は痛まなかった。
俺は獄中で、知子宛に手紙を書いた。
そしてDR.コヴィーにも。
その内容は知子に手術をうけさせてほしいと
いうものだ。
知子にもう一度元気になってもらいたいと思い、
悩んだ末出した結論だった。
刑務所の生活はきついものだった。
まずどうやったらいじめの対象にならないかの考えに
凌ぎをけずっていた。リーダー格のやつらに目をつけられず
タバコを献上したりした。
一番苦痛なのが、共同作業の時間だ。
へまをすれば必ず、密告でリーダーにちくられる。
出すぎず、消しすぎずのオーラだしは非常に難しかった。
「あんなくそオヤジのために3ヶ月も刑務所にはいらな
いといけねーのか。」俺は気が遠くなりそうだった。
ム所にはいって3週間がたったころだろうか。
看守が面会人がきていると言うので行ってみると
面会所にはレナが来ていた。
俺は椅子に座って言った。
「なんできた?」
レナは黙りこくったままだった。
「なんであの教授につけられてるっていわなかった?」
「だまってんじゃねーよ!!」
俺はガラス越しに声を張り上げた。
「わかってたんじゃねーのか?なぁ。
どーして俺にいわねーんだよ。」
----------------------
「春樹君にはいえなかったけどね。。
私、園田教授と付き合ってたの。
実は私が高校生のころオープンキャンパスで
園田教授と知り合って。」
俺はあまりにも衝撃的な言葉に耳を疑った。
「それで、私そのとき教授がカウンセリングの
モデルになってほしいっていわれて。カウンセリングを
うけていたの。・・・それでだんだん彼に惹かれていって。
最初はよかったけど段々弄ばれてるってわかってたけど、
私は、それでよかったの。・・でもある日別れを切り出したら
教授が目の色を変えて私を付け回すようになって・・
誰かに言ったら殺すとまでいわれてて。。」
俺はふぅとため息をついた。
「いいか。。。おまえ二度と俺にキスなんか
するんじゃねーぞ!!」
俺はそこまでいって面会室のドアをばん!!!と音を
たてて閉めた。
------------------
レナはそれっきりこなくなった。教授は責任をとって
辞職して逮捕されたそうだ。
「ったく。ふざけんなよ。。」
俺は予想だにしない展開に苛立っていた。
そして刑務所の昼飯のまずさにうんざりしていた。
朝5時になると看守がおきろおきろと巡回してくる。
起きなければすぐに独房いきだ。
独房だけは避けたかった。
生きた心地がしない。
そんな獄中生活だったが俺の部屋のやつがアザだらけに
なっていたのでさすがに俺は
「大丈夫か。」と声をかけた。
やつはどこをみるでもなく訳の分からない事をぶつぶついって
いた。
こいつと関わるのはやめようと思った。
「ふぅ。。」朝の仕事が終わると、俺はつかれきって
昼飯にありついた。1ヶ月たったがほんとに飯のまずさには
驚くが、そんな飯さえ楽しみになってくるほど俺はいかれて
いた。そう。俺はもうクレイジーそのものだった。
あんなくそオヤジ殴らなきゃよかったぜ。
だいたい、レナの話にも幻滅した。
何が園田教授と付き合っていた。だ。
ふざけんじゃねーよ。。。
俺は心のどこかで焼いてる自分がいないでもなかった
ことを感じていた。そんな自分にますます自己嫌悪を
抱く。例のいじめられっこが食堂に顔をだした。
----------------------
嘉人は何事もなかったかのようにダンスの練習へ
戻っていった。
ざわめく街が眠りにつくころ俺は起きだす。
狂った街が平和になるころ俺は革命を起こす。
俺はもう走り出していた。
渋谷センター街の裏路地にある風俗街だ。
俺は客引きの青年をおしのけて中に入って
ある男の前まで来ていた。
そして俺はその男を力の限りぶん殴った。
男は女とじゃれあっている中で、情けないことにひっくり
返った。
「いやぁあん時は、ご丁寧に。」俺は力いっぱい拳をふりあげて
もう一発そのオヤジを殴った。
オヤジは情けない面でもうやめてくれといわんばかりに
膨れ上がった下腹を突き出した。
「あんときの痛みはまだわすれてねーぞ!こらぁ!」
俺は完全に怒りを噴出させていた。
「立てやこらぁ!!!!」
その風俗店は徐々に騒ぎが大きくなるにつれ人だかりが
できてきた。
「・・・ゆ・ゆるしてくれ」オヤジは泣きそうな声でそう
懇願した。
「ゆるしてくれだと!?ふざけんな!俺は殺されかけだ」
俺は力いっぱい殴り続けた。オヤジはサンドバッグのように
崩れた。
そう。レナが視界から消えてすべてが灰色に化したときに
俺を刺したオヤジがいうまでもなくこいつだ。
「そろそろ、自首したらどーですか。
教授。」俺は怒りをかみ殺して言った。
周りのものや風俗嬢たちは自体が飲み込めず震えている。
「もうわかってんだよ。あんたが相沢 レナをつけまわして
俺を刺したこともね。」
そういって俺は一枚の紙を出した。レナのケータイに残って
いた着信履歴から割り出した教授のケータイ履歴と、教授
が以前からレナにセクハラしていた証言、そしてこれが一番
悲痛だった。俺がレナを泊めた時に彼女から語られた言葉達。
彼女は分かっていたのだ。誰に付けまわされているかも。
それを当たり障りのない表現で喩えていたが俺は徐々に
繋がっていった。そして嘉人から教授の話を聞いて俺は
確信を得た。
「おまえ。。明昌大学の生徒だろ。こんなことをして
いいとおもってるのか・・・」教授は情けない捨て台詞
を吐いた。
俺は、警察に事情聴取を受けることになった。
センター街の路地裏の飲食店で起きた暴力事件。
翌日の読買新聞の一面の隅にはそうのっていた。
そして俺は逮捕された。
スーツケースは押収された。
そして、教授のセクハラ、猥褻行為での検挙も決まり
追加の余罪として大学内での横領事件も新たに浮上した。
これは後日家宅捜索で分かったことだが、
教授のアパート宅では
何千もの卑猥な動画がでてきたそうだ。
レナの写真もたくさん押収された。
レナが性的関係を強要されていたことも新たに分かった。
これだけ腐ったやつを殴ったわけだが、俺も傷害罪で
拘留された。
「ほんと、情けねえよ。」俺は相部屋の豚箱に押し込まれ
られながら言った。
すでに入ってるやつは、婦女暴行で捕まったやつだ。
女や弱いものを狙ったやつ、変態、痴漢などで捕まった
囚人は決まっていじめの対象となる。
俺の相部屋のやつも食事の時間などに大男に連れて行かれて
いった。悲鳴が聞こえたが俺にはどうすることもできなかった
し、捕まえられた卑劣な行為を思うとさほど胸は痛まなかった。
俺は獄中で、知子宛に手紙を書いた。
そしてDR.コヴィーにも。
その内容は知子に手術をうけさせてほしいと
いうものだ。
知子にもう一度元気になってもらいたいと思い、
悩んだ末出した結論だった。
刑務所の生活はきついものだった。
まずどうやったらいじめの対象にならないかの考えに
凌ぎをけずっていた。リーダー格のやつらに目をつけられず
タバコを献上したりした。
一番苦痛なのが、共同作業の時間だ。
へまをすれば必ず、密告でリーダーにちくられる。
出すぎず、消しすぎずのオーラだしは非常に難しかった。
「あんなくそオヤジのために3ヶ月も刑務所にはいらな
いといけねーのか。」俺は気が遠くなりそうだった。
ム所にはいって3週間がたったころだろうか。
看守が面会人がきていると言うので行ってみると
面会所にはレナが来ていた。
俺は椅子に座って言った。
「なんできた?」
レナは黙りこくったままだった。
「なんであの教授につけられてるっていわなかった?」
「だまってんじゃねーよ!!」
俺はガラス越しに声を張り上げた。
「わかってたんじゃねーのか?なぁ。
どーして俺にいわねーんだよ。」
----------------------
「春樹君にはいえなかったけどね。。
私、園田教授と付き合ってたの。
実は私が高校生のころオープンキャンパスで
園田教授と知り合って。」
俺はあまりにも衝撃的な言葉に耳を疑った。
「それで、私そのとき教授がカウンセリングの
モデルになってほしいっていわれて。カウンセリングを
うけていたの。・・・それでだんだん彼に惹かれていって。
最初はよかったけど段々弄ばれてるってわかってたけど、
私は、それでよかったの。・・でもある日別れを切り出したら
教授が目の色を変えて私を付け回すようになって・・
誰かに言ったら殺すとまでいわれてて。。」
俺はふぅとため息をついた。
「いいか。。。おまえ二度と俺にキスなんか
するんじゃねーぞ!!」
俺はそこまでいって面会室のドアをばん!!!と音を
たてて閉めた。
------------------
レナはそれっきりこなくなった。教授は責任をとって
辞職して逮捕されたそうだ。
「ったく。ふざけんなよ。。」
俺は予想だにしない展開に苛立っていた。
そして刑務所の昼飯のまずさにうんざりしていた。
朝5時になると看守がおきろおきろと巡回してくる。
起きなければすぐに独房いきだ。
独房だけは避けたかった。
生きた心地がしない。
そんな獄中生活だったが俺の部屋のやつがアザだらけに
なっていたのでさすがに俺は
「大丈夫か。」と声をかけた。
やつはどこをみるでもなく訳の分からない事をぶつぶついって
いた。
こいつと関わるのはやめようと思った。
「ふぅ。。」朝の仕事が終わると、俺はつかれきって
昼飯にありついた。1ヶ月たったがほんとに飯のまずさには
驚くが、そんな飯さえ楽しみになってくるほど俺はいかれて
いた。そう。俺はもうクレイジーそのものだった。
あんなくそオヤジ殴らなきゃよかったぜ。
だいたい、レナの話にも幻滅した。
何が園田教授と付き合っていた。だ。
ふざけんじゃねーよ。。。
俺は心のどこかで焼いてる自分がいないでもなかった
ことを感じていた。そんな自分にますます自己嫌悪を
抱く。例のいじめられっこが食堂に顔をだした。
第5話(3)
--------------
サブは俺が振り返ると同時に立ち去っていった。
はじかれたように俺はレナから離れた。
俺たちの間には今までのような雰囲気とはまったく異質
のものが流れていた。少なくとも俺はそう感じた。
レナもそう感じていたろう。俺はスーツケースを手に取ると
「直哉が時々来てくれるからゆっくり休め。」とだけ
言うとその場を振り切るように外へと出た。出なければ
ならなかった。
一体、あのキスはなんだったんだろうか。雑踏の中俺は
ただ打ちのめされていた。
怒り、喜び、悲しみ、虚しさ、挫折、妬み、そんな
今まで経験してきたありきたりの感覚とはどこか違う。
俺の中で起こっているのだけれど、どこか俺自身が他人事
と片付けてしまうあきらめにも似た感情だ。
それは幾多の挫折の中でなにかの拍子に紛れ込んできたような
突然変異である。
俺は哲学者でも科学者でも啓蒙家でもない。
だが、こう叫びたい。
「この日常に埋没するなんてくそくらえだ。」
俺はそういって転がるコーラの空き缶を蹴飛ばした。
カランコロン。。
空き缶はみるにも忍びがたいドレッドヘアの少年の近くへ
と転がっていった。
少年の名は、嘉人と書いてよしとだ。
ヨシトはブレーキングダンスをやっていた。
俺が蹴った空き缶のせいでダンスを中断された
ヨシトは不機嫌な顔をして俺のところまできた。
でかいスーツケースを持ち考え事にふける俺を
まじまじとみつめた。
「おまえ、明昌大学のやつだろ?」
やつはくちゃくちゃガムを噛みながら見下した態度でいう。
「・・・」俺が黙っているとヨシトは続けて言う。
「まあ、いいけどよ。相沢レナには手をださないほうがいいぜ。
噂が広まってるんでね。社会忠告。」そういって相変わらず
ガムをくちゃくちゃ音をたてながらぷくっと膨らませて
やつは笑顔で肩をぽんっとなれなれしく叩いてきた。
「ださねーよ、バカヤロ。」俺の声は届いたかは
わからない。
「少し詳しく話を聞かせてくれ。」俺はお返しに
肩をぽんっとたたいた。
TO BE CONTINUED!!!
--------------
サブは俺が振り返ると同時に立ち去っていった。
はじかれたように俺はレナから離れた。
俺たちの間には今までのような雰囲気とはまったく異質
のものが流れていた。少なくとも俺はそう感じた。
レナもそう感じていたろう。俺はスーツケースを手に取ると
「直哉が時々来てくれるからゆっくり休め。」とだけ
言うとその場を振り切るように外へと出た。出なければ
ならなかった。
一体、あのキスはなんだったんだろうか。雑踏の中俺は
ただ打ちのめされていた。
怒り、喜び、悲しみ、虚しさ、挫折、妬み、そんな
今まで経験してきたありきたりの感覚とはどこか違う。
俺の中で起こっているのだけれど、どこか俺自身が他人事
と片付けてしまうあきらめにも似た感情だ。
それは幾多の挫折の中でなにかの拍子に紛れ込んできたような
突然変異である。
俺は哲学者でも科学者でも啓蒙家でもない。
だが、こう叫びたい。
「この日常に埋没するなんてくそくらえだ。」
俺はそういって転がるコーラの空き缶を蹴飛ばした。
カランコロン。。
空き缶はみるにも忍びがたいドレッドヘアの少年の近くへ
と転がっていった。
少年の名は、嘉人と書いてよしとだ。
ヨシトはブレーキングダンスをやっていた。
俺が蹴った空き缶のせいでダンスを中断された
ヨシトは不機嫌な顔をして俺のところまできた。
でかいスーツケースを持ち考え事にふける俺を
まじまじとみつめた。
「おまえ、明昌大学のやつだろ?」
やつはくちゃくちゃガムを噛みながら見下した態度でいう。
「・・・」俺が黙っているとヨシトは続けて言う。
「まあ、いいけどよ。相沢レナには手をださないほうがいいぜ。
噂が広まってるんでね。社会忠告。」そういって相変わらず
ガムをくちゃくちゃ音をたてながらぷくっと膨らませて
やつは笑顔で肩をぽんっとなれなれしく叩いてきた。
「ださねーよ、バカヤロ。」俺の声は届いたかは
わからない。
「少し詳しく話を聞かせてくれ。」俺はお返しに
肩をぽんっとたたいた。
TO BE CONTINUED!!!
第5話(2)
------------------
それは異様な幕開けだった。
なにもかもが異次元かのような。
無造作に陳列された塊。
俺は仲間とオールした後、再びアメリカへ戻る身支度を
した。
サブと直哉たちが帰った。
レナは相変わらずわれここにあらずといった調子だ。
俺がスーツケースに手を伸ばした瞬間だったろうか。
俺の手の上にレナの冷たい小さな手がやんわりと
乗せられた。
ふいな行為に俺は一瞬戸惑った。そして沈黙して
見つめる。レナは透き通った茶色い目をしている。
その目は俺の心の中まで見透かしているようでもある。
逃げることもできない獲物を捕らえた瞳だ。
その瞬間。
レナは俺にくらいつくぐらいのディープキスを
してきた。俺は一瞬なにがなんだか分からなかった。
頭の中がぐわんぐわんかき混ぜられたコインランドリーの
ようになる。そしてガレージでガンがんに鳴らされた
ガレッジミュージックのようなリフが頭をかけめぐる
ようだ。レナのキスはそれぐらい鮮烈なものなのだ。
形容することはできない。
このまま溺れてしまいそうだ。。
知子のことが脳裏によぎる。
それを乗っ取るかのように
レナが近づいてくる。
何分たったろうか?
レナは俺の唇を探っている。
俺がわれに返ると扉には
忘れ物を取りに帰ってきたサブが
呆然と立っていた。
to be continued....
------------------
それは異様な幕開けだった。
なにもかもが異次元かのような。
無造作に陳列された塊。
俺は仲間とオールした後、再びアメリカへ戻る身支度を
した。
サブと直哉たちが帰った。
レナは相変わらずわれここにあらずといった調子だ。
俺がスーツケースに手を伸ばした瞬間だったろうか。
俺の手の上にレナの冷たい小さな手がやんわりと
乗せられた。
ふいな行為に俺は一瞬戸惑った。そして沈黙して
見つめる。レナは透き通った茶色い目をしている。
その目は俺の心の中まで見透かしているようでもある。
逃げることもできない獲物を捕らえた瞳だ。
その瞬間。
レナは俺にくらいつくぐらいのディープキスを
してきた。俺は一瞬なにがなんだか分からなかった。
頭の中がぐわんぐわんかき混ぜられたコインランドリーの
ようになる。そしてガレージでガンがんに鳴らされた
ガレッジミュージックのようなリフが頭をかけめぐる
ようだ。レナのキスはそれぐらい鮮烈なものなのだ。
形容することはできない。
このまま溺れてしまいそうだ。。
知子のことが脳裏によぎる。
それを乗っ取るかのように
レナが近づいてくる。
何分たったろうか?
レナは俺の唇を探っている。
俺がわれに返ると扉には
忘れ物を取りに帰ってきたサブが
呆然と立っていた。
to be continued....
第5話「嵐のような日々」
---------------
俺は、日本に一時的に戻った。
レナをこのままNYの街へ置き去りにすれば間違いなく
DRUGに走るだろうと思ったからだ。
彼女にはケアが必要だと俺は判断した。
しかし知子のことも、放っておけないので俺は長居をする
つもりはなかった。
ケータイをポケットから取り出し、電話帳から直哉の
番号を映し出す。直哉は4回目の呼び出し音で出た。
少し、眠たそうな声だった。
「もしもし。春樹だ。」
「・・。おーハル。しばらくぶりだな。」
「直哉、おまえに頼みがあるんだ。俺のアパートに
レナが今いる。レナの様子をちょくちょくみにきてくれ
ないか?」タバコに火をつけ俺は言った。久々の東京の
空気を吸い込んだ。
「・・・・・。そうか。わかった。ななみに誤解のないように
一言おまえからいっといてくれよな。」
「もちろんだ。ありがとう。すまないな。」
そういって俺は通話ボタンを切った。
目を静かに閉じる。そこにはNYの狂ったストリート
はもう映し出されていなかった。
俺のベッドにはレナがぐったりと寝ていた。
しなやかな肢体。まったく無防備で足を投げ出している。
「ったく。。人の気もしらねーでよ。」
俺はしょうがねーなぁと安堵のため息をついた。
ふと窓の外をみる。ジャンボジェット機が離陸していった。
いつか俺もあんな風に自由に空を飛ぶことができればな。
そういって紙ひこーきを投げた。無造作に飛行機は飛んでいった。
----------------
ベルが鳴った。
出てみると直哉だった。
ななみもいっしょだ。
「よう。」俺は笑顔でチェーンをはずす。
「ひさしぶり。」直哉はななみを連れて玄関に入った。
「今コーヒーだすから待ってて。」
「ハル。おまえ、相沢とつきあってんのか?」
直哉はそう口を開く。
二人は俺のベッドにつっぷしているレナを見て絶句していた。
キッチン越しに俺はそんな二人を見ていたが
何も言わずにやりすごした。
レコードに流れる昔懐かしの曲。この曲はなんだっけな。
そうそう。ビートルズの、NO WHERE MANだ。
俺は落ち込んだときこのレコードをかけるのだ。
「付き合ってねえよ。」
付き合ってるっていうのはどこからが付き合ってるっていうんだろうか。
ふと俺は思う。付き合ってください。といっていいよ。と言われたら
二人は付き合ってることになるんだろうか。あるいはキスをしたときから?
手をつないだときから?いやいやそんなものじゃなくて心が通じたときからだろ
というロマンチストもいるだろう。
今日は心が軽かった。俺は三人を残してコンビニへ買い出しへと向かった。
久々の渋谷。センター街。流行のファッションに身をつつむ若者たち。
やはり日本にいるということが俺を癒しへと導く。
やるせないような孤独感は和らいでいく。
―えっと。直哉がすきなのは、マカダミア。ななみがすきなのは、
チーズビット。レナがすきなのは・・・レナが好きなもの。
俺は何故かそこで胸の鼓動が高鳴っているのに感づいた。
俺自身の中でなにか分裂しているというか心臓だけ誰かに操られている
感覚に襲われる。あいつの好きなものってなんなんだ。
俺は店員にありがとうといってコンビニ袋をひっさげた。
寒さが身にしみる。身をちじこまらせて歩く。
「ハル!」後ろから肩に手をかけてくる。
振り返るとサブが笑顔でたっていた。
「久しぶりだな。」サブは何一つかわらることなくいつものお調子者の
オーラを放っていた。そんなやつのオーラが俺はすきだった。
久々にこの空気感に包まれて俺は笑顔で
「おっす。」と返した。
いつも変わらない事ってなんだろう。それは、人との繋がりだろう。
時代が変わってもかわりつづけないもの。
「ハル、NYでいろいろあったみたいだな。春樹からきいたぜ。」
「まあな。」
「久々におまえ飲みにいこうぜ。」サブは俺を誘ってくる。
俺は自分のアパートに3人を待たせていることを言った。
そしてこう付け加えた。
「よかったらサブ。俺のアパートでみんなで飲まないか?」
「へっへ。そうくるとおもってたぜ。」
-----------------
自宅に戻るとレナは起きて三人と何やら話していた。
どうやらあまり記憶がないらしい・・・
「みんな、サブ君のおでましですよー!」
俺はそう声を張り上げた。
しらーーっとするみんな。
「おいおい!なんだよ!せっかくきてやったのによ!」
ぷっと吹き出す直哉。
「俺のハーレムを邪魔すんじゃねーよ。」
直哉は早く来いよというジェスチャーをして言った。
鼻くそ事件やらなにやら語り明かした。
久々みんなで水いらずで語り明かす夜は最高だった。
友達がこんなにも俺の支えになってるなんてと密かに
俺は思った。鍋の肉の取り合い合戦が終わるとサブは
酔いつぶれていた。直哉とななみはふたりの世界に
はいっていた。
「ったく。ラブラブするんなら家へ帰れよな!」サブは
冗談ぽく言う。
「サブ。おまえにも実は春が近づいてるぞ。」俺はそういって
ケータイを開いてみせた。
それはあるメールだ。それは明昌大学の文学部英文科の
岡橋 潤子だった。通称オカジュン。オカジュンはサブに
惚れているようで俺に彼女がいないか聞いてほしいという
メールをよこしたのだ。
サブはそれをしって一人で飛び跳ねていた。
潤子は少し、時代遅れのファッションだったが、なかなか
綺麗なこだった。性格も俺の知っている限りでは気を遣う
いいこだったと記憶している。
みんなそれぞれの道を進んでるなと思い俺は微笑んだ。
ふとレナのほうをみるといつもの笑顔でサブと話している。
俺はそんなレナの横顔をみて言った。
「あーー!誰だ!俺の残してたコーラ全部飲んだやつ!!」
その声は今年一番の明るさを帯びていた。
俺は束の間の帰国での、楽しいひと時をみんなと共有していた。
サブエンディング曲:「SO WHY SO SAD」
BY マニックス To be continued….
---------------
俺は、日本に一時的に戻った。
レナをこのままNYの街へ置き去りにすれば間違いなく
DRUGに走るだろうと思ったからだ。
彼女にはケアが必要だと俺は判断した。
しかし知子のことも、放っておけないので俺は長居をする
つもりはなかった。
ケータイをポケットから取り出し、電話帳から直哉の
番号を映し出す。直哉は4回目の呼び出し音で出た。
少し、眠たそうな声だった。
「もしもし。春樹だ。」
「・・。おーハル。しばらくぶりだな。」
「直哉、おまえに頼みがあるんだ。俺のアパートに
レナが今いる。レナの様子をちょくちょくみにきてくれ
ないか?」タバコに火をつけ俺は言った。久々の東京の
空気を吸い込んだ。
「・・・・・。そうか。わかった。ななみに誤解のないように
一言おまえからいっといてくれよな。」
「もちろんだ。ありがとう。すまないな。」
そういって俺は通話ボタンを切った。
目を静かに閉じる。そこにはNYの狂ったストリート
はもう映し出されていなかった。
俺のベッドにはレナがぐったりと寝ていた。
しなやかな肢体。まったく無防備で足を投げ出している。
「ったく。。人の気もしらねーでよ。」
俺はしょうがねーなぁと安堵のため息をついた。
ふと窓の外をみる。ジャンボジェット機が離陸していった。
いつか俺もあんな風に自由に空を飛ぶことができればな。
そういって紙ひこーきを投げた。無造作に飛行機は飛んでいった。
----------------
ベルが鳴った。
出てみると直哉だった。
ななみもいっしょだ。
「よう。」俺は笑顔でチェーンをはずす。
「ひさしぶり。」直哉はななみを連れて玄関に入った。
「今コーヒーだすから待ってて。」
「ハル。おまえ、相沢とつきあってんのか?」
直哉はそう口を開く。
二人は俺のベッドにつっぷしているレナを見て絶句していた。
キッチン越しに俺はそんな二人を見ていたが
何も言わずにやりすごした。
レコードに流れる昔懐かしの曲。この曲はなんだっけな。
そうそう。ビートルズの、NO WHERE MANだ。
俺は落ち込んだときこのレコードをかけるのだ。
「付き合ってねえよ。」
付き合ってるっていうのはどこからが付き合ってるっていうんだろうか。
ふと俺は思う。付き合ってください。といっていいよ。と言われたら
二人は付き合ってることになるんだろうか。あるいはキスをしたときから?
手をつないだときから?いやいやそんなものじゃなくて心が通じたときからだろ
というロマンチストもいるだろう。
今日は心が軽かった。俺は三人を残してコンビニへ買い出しへと向かった。
久々の渋谷。センター街。流行のファッションに身をつつむ若者たち。
やはり日本にいるということが俺を癒しへと導く。
やるせないような孤独感は和らいでいく。
―えっと。直哉がすきなのは、マカダミア。ななみがすきなのは、
チーズビット。レナがすきなのは・・・レナが好きなもの。
俺は何故かそこで胸の鼓動が高鳴っているのに感づいた。
俺自身の中でなにか分裂しているというか心臓だけ誰かに操られている
感覚に襲われる。あいつの好きなものってなんなんだ。
俺は店員にありがとうといってコンビニ袋をひっさげた。
寒さが身にしみる。身をちじこまらせて歩く。
「ハル!」後ろから肩に手をかけてくる。
振り返るとサブが笑顔でたっていた。
「久しぶりだな。」サブは何一つかわらることなくいつものお調子者の
オーラを放っていた。そんなやつのオーラが俺はすきだった。
久々にこの空気感に包まれて俺は笑顔で
「おっす。」と返した。
いつも変わらない事ってなんだろう。それは、人との繋がりだろう。
時代が変わってもかわりつづけないもの。
「ハル、NYでいろいろあったみたいだな。春樹からきいたぜ。」
「まあな。」
「久々におまえ飲みにいこうぜ。」サブは俺を誘ってくる。
俺は自分のアパートに3人を待たせていることを言った。
そしてこう付け加えた。
「よかったらサブ。俺のアパートでみんなで飲まないか?」
「へっへ。そうくるとおもってたぜ。」
-----------------
自宅に戻るとレナは起きて三人と何やら話していた。
どうやらあまり記憶がないらしい・・・
「みんな、サブ君のおでましですよー!」
俺はそう声を張り上げた。
しらーーっとするみんな。
「おいおい!なんだよ!せっかくきてやったのによ!」
ぷっと吹き出す直哉。
「俺のハーレムを邪魔すんじゃねーよ。」
直哉は早く来いよというジェスチャーをして言った。
鼻くそ事件やらなにやら語り明かした。
久々みんなで水いらずで語り明かす夜は最高だった。
友達がこんなにも俺の支えになってるなんてと密かに
俺は思った。鍋の肉の取り合い合戦が終わるとサブは
酔いつぶれていた。直哉とななみはふたりの世界に
はいっていた。
「ったく。ラブラブするんなら家へ帰れよな!」サブは
冗談ぽく言う。
「サブ。おまえにも実は春が近づいてるぞ。」俺はそういって
ケータイを開いてみせた。
それはあるメールだ。それは明昌大学の文学部英文科の
岡橋 潤子だった。通称オカジュン。オカジュンはサブに
惚れているようで俺に彼女がいないか聞いてほしいという
メールをよこしたのだ。
サブはそれをしって一人で飛び跳ねていた。
潤子は少し、時代遅れのファッションだったが、なかなか
綺麗なこだった。性格も俺の知っている限りでは気を遣う
いいこだったと記憶している。
みんなそれぞれの道を進んでるなと思い俺は微笑んだ。
ふとレナのほうをみるといつもの笑顔でサブと話している。
俺はそんなレナの横顔をみて言った。
「あーー!誰だ!俺の残してたコーラ全部飲んだやつ!!」
その声は今年一番の明るさを帯びていた。
俺は束の間の帰国での、楽しいひと時をみんなと共有していた。
サブエンディング曲:「SO WHY SO SAD」
BY マニックス To be continued….
Fight for your light
第4話(6)
--------------------
札束は廊下一面に散らばった。
レナと俺はその中で二人きりだった。
こんなに傍に父親がいるのにまともに話せないレナ。
時はそれでも流れていく。どんな難問でも時間が解決してくれる。
誰かがそんなことを言った。果たしてそうなのだろうか。
いつまでたっても解決しない問題もあるんじゃないか。
俺は足元を覆い尽くす札束を蹴散らした。
10代のころのような鈍いそして体全身を襲う不安定なホルモンで
満たされていく。
そこに救いは一切なかった。
----------------------------------------
俺たちはホテルを後にして、あてもなく歩き続いた。
スラム街ではストリートチルドレンで溢れ返っていた。
時々俺はこっちにきてもjapan timesを読む。
日本では今、女児を狙った事件が頻繁に起こっている。
「腐ってやがる」
俺は憤りを覚えた。一連の事件は、
まるで無数のコーヒーの無糖の苦味をそのままスプーンでかき混ぜ続け無限にループするかのように、
そのまま永遠に癒えることのない痛みを被害者の遺族にこのまま与えつづけるのだろう。
「レナ。」さっきからレナは死んだような目でただ歩き続けている。
俺はレナの背中ごしに彼女の孤独感を感じ取った。
ずっと一人で生きてきたという空気をリアルにそして嫌というほど切り刻まれた
肉片のようにただレナは歩いている。
ふと俺が目をそらした瞬間。レナが消えた。狭い路地裏を横に入っていったようだ。
「レナ!!!!」俺は息を切らしながらレナの後を追った。
レナはシャツの袖をまくりあげて黒人につきだしていた。彼女の英語はネイティブなみであったが間違いなくここに注射をうてという意味なのは見て取れてわかった。
「レナ!!!やめろ!」俺は黒人とレナの間に割って入った。
大粒の汗が滴り落ちどんよりとした下水管へと落ちてゆく。
レナは相変わらず、虚ろな目をしたままふらふらしている。
「ドラッグだけには手をだすな!!!」
そういって俺はレナの腕を引きずって路地裏からつまみだした。
黒人の罵声が背中に迫ってくる。
-------------------------------------
明けない夜などない。
どんな苦しい夜も。
どんなに切ない夜でも。
昔、母がよく聞いていたカーペンターズの「青春の輝き」を口ずさみ
ながら俺はこの密林のような街を歩き続けた。
背中にレナを背負って。
誘惑だらけの街。片言の日本語で客引きしてくる娼婦たち。
派手な化粧をして幾人もの多国籍娼婦がこのストリートに立っていた。
スロットの前に座り続ける空虚な住民。
すべてが細菌に感染したようにこの街は何かが狂っていた。
何もかも規格外の中に置かれたような鈍い痛みを俺はいつも感じている。
それは異国だからとかそういうものではない。
知子のことでもない。
俺はどうしても吐き出せない感情がいつだってある。
気づいたらいつだって誰かが手を差し伸べてくれる時代は終わった。
背中に暖かいぬくもりがあるのだけが今のレナの存在を確かめる唯一の方法だった。
かじかんだ手。いつも俺は繋がっていると思っていた。でもそれは違った。
レナも父親に愛されたかったんだろう。かなわぬ想いを胸に秘め泣きつかれすやすや
と寝ているレナの素顔は純粋な少女そのものであった。
------------------------
これ以上、細菌が増え続けるのを止めなくてはならない。
俺は戦わなければならない。
痛みさえ忘れて。どんな憤りも噛み殺し針となりそれは
やがて体中に毒として回っていっても。
狂うことなく俺は俺の歩む道を進むだけだ。
レナを背負いなおし俺は自分の歩いてきた足跡を振り返って
少し和らいだ笑顔を浮かべた。
To be continued….
エンディング曲:「Sucide is painless 」
by マニックス
第4話(6)
--------------------
札束は廊下一面に散らばった。
レナと俺はその中で二人きりだった。
こんなに傍に父親がいるのにまともに話せないレナ。
時はそれでも流れていく。どんな難問でも時間が解決してくれる。
誰かがそんなことを言った。果たしてそうなのだろうか。
いつまでたっても解決しない問題もあるんじゃないか。
俺は足元を覆い尽くす札束を蹴散らした。
10代のころのような鈍いそして体全身を襲う不安定なホルモンで
満たされていく。
そこに救いは一切なかった。
----------------------------------------
俺たちはホテルを後にして、あてもなく歩き続いた。
スラム街ではストリートチルドレンで溢れ返っていた。
時々俺はこっちにきてもjapan timesを読む。
日本では今、女児を狙った事件が頻繁に起こっている。
「腐ってやがる」
俺は憤りを覚えた。一連の事件は、
まるで無数のコーヒーの無糖の苦味をそのままスプーンでかき混ぜ続け無限にループするかのように、
そのまま永遠に癒えることのない痛みを被害者の遺族にこのまま与えつづけるのだろう。
「レナ。」さっきからレナは死んだような目でただ歩き続けている。
俺はレナの背中ごしに彼女の孤独感を感じ取った。
ずっと一人で生きてきたという空気をリアルにそして嫌というほど切り刻まれた
肉片のようにただレナは歩いている。
ふと俺が目をそらした瞬間。レナが消えた。狭い路地裏を横に入っていったようだ。
「レナ!!!!」俺は息を切らしながらレナの後を追った。
レナはシャツの袖をまくりあげて黒人につきだしていた。彼女の英語はネイティブなみであったが間違いなくここに注射をうてという意味なのは見て取れてわかった。
「レナ!!!やめろ!」俺は黒人とレナの間に割って入った。
大粒の汗が滴り落ちどんよりとした下水管へと落ちてゆく。
レナは相変わらず、虚ろな目をしたままふらふらしている。
「ドラッグだけには手をだすな!!!」
そういって俺はレナの腕を引きずって路地裏からつまみだした。
黒人の罵声が背中に迫ってくる。
-------------------------------------
明けない夜などない。
どんな苦しい夜も。
どんなに切ない夜でも。
昔、母がよく聞いていたカーペンターズの「青春の輝き」を口ずさみ
ながら俺はこの密林のような街を歩き続けた。
背中にレナを背負って。
誘惑だらけの街。片言の日本語で客引きしてくる娼婦たち。
派手な化粧をして幾人もの多国籍娼婦がこのストリートに立っていた。
スロットの前に座り続ける空虚な住民。
すべてが細菌に感染したようにこの街は何かが狂っていた。
何もかも規格外の中に置かれたような鈍い痛みを俺はいつも感じている。
それは異国だからとかそういうものではない。
知子のことでもない。
俺はどうしても吐き出せない感情がいつだってある。
気づいたらいつだって誰かが手を差し伸べてくれる時代は終わった。
背中に暖かいぬくもりがあるのだけが今のレナの存在を確かめる唯一の方法だった。
かじかんだ手。いつも俺は繋がっていると思っていた。でもそれは違った。
レナも父親に愛されたかったんだろう。かなわぬ想いを胸に秘め泣きつかれすやすや
と寝ているレナの素顔は純粋な少女そのものであった。
------------------------
これ以上、細菌が増え続けるのを止めなくてはならない。
俺は戦わなければならない。
痛みさえ忘れて。どんな憤りも噛み殺し針となりそれは
やがて体中に毒として回っていっても。
狂うことなく俺は俺の歩む道を進むだけだ。
レナを背負いなおし俺は自分の歩いてきた足跡を振り返って
少し和らいだ笑顔を浮かべた。
To be continued….
エンディング曲:「Sucide is painless 」
by マニックス
第4話(5)
緑が生い茂った木々の中にあるビジネス街。その一角のカフェで待ち合わせて
いた。入り口に入ると一人ぽつんと寂しそうな背中をむけているレナ。
すぐにレナだとわかった。こういう異国の中では日本人同士共鳴しあって
しまうからだろうか。少しレナを見つけた瞬間、安堵と切なさが入
り混じって
精製された感情が湧き出す。彼女はコーヒーをスプーンでかき混ぜていた。
俺は肩に手をぽんっと後ろから軽く乗せてから向かい側の席に
「座っていいか?」と聞いてから座った。
まじまじとレナを改めてみる。日本にいるときにはきづかなかったが
レナの瞳はよく見ると透き通ったエメラルドのような色をしていた。
「・・・・久しぶりね。」
「そうだな。」俺はウエイトレスが近づくのみてすいません同じのひとつ
とオーダーした。
「それで・・」俺はそこで口をつぐんだ。
「春樹君、少しやせた?」
急なレナの言葉に俺はまたも困惑させられる。
彼女はいつだってペースを
乱すところがある。
それは彼女の魅力と同時に欠点だった。
「そうか?こっちきて不規則な生活してるからかもな。」
コーヒーが運ばれてきてウエイトレスが丁寧にテーブルにカップを
おく。俺は軽く会釈をした。そして、多めに砂糖を入れる。
「俺って昔から甘党なんだよなあ。」
レナはくすっと笑う。笑ったときに目が糸みたいになる。
普段はぱっちりした目がその糸になると俺はうれしくなる。
「そうなんだ。春樹くんって女の子みたいだね。」
すこし茶化された気がしたので俺は頭を掻いた。
「春樹君ってさ、普通の人にない何かをもっている気がする。」
「何か?」俺はレナの目を見て言う。
「うん。上手くはいえないけど、相手の心を見抜いてそれを
うまくリードするっていうのかな。」
自分のいいところ悪いところっていうのは自分が一番わかっている
ようでわかっていない。
「リードねぇ。レナも普通の女の子とは違うな。なんつーか
どれだけしゃべっててもつかみきれないっつうか。
どこまでが本音なのかわからない。」
俺は本心で語った。
「どういうこと?」レナはコーヒーを上品に啜りながら上目遣いで言う。
「うーん。なんだろ。いっしょにずっと居て話してもレナのことはわか
らないってことさ。つまり、そーだなあ。用は何を考えているか分からない。」
そこでしばらく沈黙が流れる。
たまに俺はこういう人種に出くわす。あまり自分の思っていることを口に
しないタイプだろうか。昔俺の友人の中にもいた。彼は意識的に自分のことを
言わないのかは分からないがどんな人か分からずじまいだった。
レナにはそれに似たものを覚える。
「分からないねえ。確かに私って、あんまりおおっぴらにしない人だから。」
レナは物憂げな表情で言った。
「春樹君がさらけだせって言ったけど私にはそれはできないかも。」
「あせることはねーよ。人間ってそんなすぐ変わるものじゃねーし。」
俺は肩の力をぬけよというジェスチャーをしてタバコに火をつけた。
「それで、親父とは話せたのか?」
「まだ。今日の22時に会議が終わるから会社までいこうと思ってる。」
「で。俺についてきてほしいって?」
「そーいうことね。」
俺は笑顔でコーヒーの香りを楽しんだ。
「お安い御用で。」
「で。知子ちゃんはどうなの?」レナは言いにくそうだった。
「気にすんなよ。レナは親父のことだけ考えてな。」
そういって俺はレナの頭に手をぽんっと乗せて会計を済ませた。
---------------------------------------
高層ビルがそびえたつビジネス街であるウォール街に俺らは
来た。スーツでびしっと決め手できる男や女が歩いている中で
俺たちの存在は明らかに浮いていた。
レナの親父が勤めてるニューエクスプレス証券会社の高層ビルの前に
俺たちは立っていた。
「待って。お父さんが一人になったときに行きたいの。」
俺は黙って彼女を見守っていた。
「会社の前はやべーよな。」
そして俺はこう付け加えた。
「レナ、親父の家わかんねーのか??」
「出張中はホテルに泊まっているの。」
「ホテル名はわかるのか?」
レナは手帳を取り出した。
ビジネスホテル:RIVER SIDE
そう殴り書きされたページを開いて場所を確認している。
「その前にいこうか?」俺はレナの判断を待った。
「・・・そうだね。きっと会社の前なら秘書とかSPに
取り囲まれるだろうし。」
「レナ。真実を確認したいのか?」
これ以上彼女に冒険をさせていいのか。
見たくないものまで見る必要があるのか。
知りたくないことまで知る必要があるのか。
「そのためにNYまでわざわざ来たんだから。」
レナはしっかり俺のほうをみて強く言った。
その表情をみて俺はついていくことにした。
だが、強気な彼女だったがそれは素振りであることを
俺は見抜いていた。実は彼女がかすかに震えていた
から。後は彼女の意志を尊重するのみだろう。
殺伐としたウォール街を後にしてタクシーで
ブルジョワジーたちの高級ホテル街へと繰り出す。
静かな空気の中で俺は息を吸い込む。肺の中まで
汚れた空気が浸透していく。汚い大人たちのように
俺もなっていくのだろうか。島根に戻りたいとふと
俺はおもう。
ホテル「リバーサイド」まで俺たちは来た。
壮大な概観でプールまで付いていた。白い色を基調とした
レンガ造りで歴史ある空間を作り出すために独自の
加工が施されている。
さっきからだまったままのレナの後ろ姿を俺は一瞥する。
取締役のような貫禄のある男がロビーに入ってきた。
男はきれいに整髪されたオールバックに、厳かな表情
できびきび歩いている。少し神経質そうな感じだ。
その男をみているとレナがふいに言った。
「あれが、私の父親よ。」
to be continued……
緑が生い茂った木々の中にあるビジネス街。その一角のカフェで待ち合わせて
いた。入り口に入ると一人ぽつんと寂しそうな背中をむけているレナ。
すぐにレナだとわかった。こういう異国の中では日本人同士共鳴しあって
しまうからだろうか。少しレナを見つけた瞬間、安堵と切なさが入
り混じって
精製された感情が湧き出す。彼女はコーヒーをスプーンでかき混ぜていた。
俺は肩に手をぽんっと後ろから軽く乗せてから向かい側の席に
「座っていいか?」と聞いてから座った。
まじまじとレナを改めてみる。日本にいるときにはきづかなかったが
レナの瞳はよく見ると透き通ったエメラルドのような色をしていた。
「・・・・久しぶりね。」
「そうだな。」俺はウエイトレスが近づくのみてすいません同じのひとつ
とオーダーした。
「それで・・」俺はそこで口をつぐんだ。
「春樹君、少しやせた?」
急なレナの言葉に俺はまたも困惑させられる。
彼女はいつだってペースを
乱すところがある。
それは彼女の魅力と同時に欠点だった。
「そうか?こっちきて不規則な生活してるからかもな。」
コーヒーが運ばれてきてウエイトレスが丁寧にテーブルにカップを
おく。俺は軽く会釈をした。そして、多めに砂糖を入れる。
「俺って昔から甘党なんだよなあ。」
レナはくすっと笑う。笑ったときに目が糸みたいになる。
普段はぱっちりした目がその糸になると俺はうれしくなる。
「そうなんだ。春樹くんって女の子みたいだね。」
すこし茶化された気がしたので俺は頭を掻いた。
「春樹君ってさ、普通の人にない何かをもっている気がする。」
「何か?」俺はレナの目を見て言う。
「うん。上手くはいえないけど、相手の心を見抜いてそれを
うまくリードするっていうのかな。」
自分のいいところ悪いところっていうのは自分が一番わかっている
ようでわかっていない。
「リードねぇ。レナも普通の女の子とは違うな。なんつーか
どれだけしゃべっててもつかみきれないっつうか。
どこまでが本音なのかわからない。」
俺は本心で語った。
「どういうこと?」レナはコーヒーを上品に啜りながら上目遣いで言う。
「うーん。なんだろ。いっしょにずっと居て話してもレナのことはわか
らないってことさ。つまり、そーだなあ。用は何を考えているか分からない。」
そこでしばらく沈黙が流れる。
たまに俺はこういう人種に出くわす。あまり自分の思っていることを口に
しないタイプだろうか。昔俺の友人の中にもいた。彼は意識的に自分のことを
言わないのかは分からないがどんな人か分からずじまいだった。
レナにはそれに似たものを覚える。
「分からないねえ。確かに私って、あんまりおおっぴらにしない人だから。」
レナは物憂げな表情で言った。
「春樹君がさらけだせって言ったけど私にはそれはできないかも。」
「あせることはねーよ。人間ってそんなすぐ変わるものじゃねーし。」
俺は肩の力をぬけよというジェスチャーをしてタバコに火をつけた。
「それで、親父とは話せたのか?」
「まだ。今日の22時に会議が終わるから会社までいこうと思ってる。」
「で。俺についてきてほしいって?」
「そーいうことね。」
俺は笑顔でコーヒーの香りを楽しんだ。
「お安い御用で。」
「で。知子ちゃんはどうなの?」レナは言いにくそうだった。
「気にすんなよ。レナは親父のことだけ考えてな。」
そういって俺はレナの頭に手をぽんっと乗せて会計を済ませた。
---------------------------------------
高層ビルがそびえたつビジネス街であるウォール街に俺らは
来た。スーツでびしっと決め手できる男や女が歩いている中で
俺たちの存在は明らかに浮いていた。
レナの親父が勤めてるニューエクスプレス証券会社の高層ビルの前に
俺たちは立っていた。
「待って。お父さんが一人になったときに行きたいの。」
俺は黙って彼女を見守っていた。
「会社の前はやべーよな。」
そして俺はこう付け加えた。
「レナ、親父の家わかんねーのか??」
「出張中はホテルに泊まっているの。」
「ホテル名はわかるのか?」
レナは手帳を取り出した。
ビジネスホテル:RIVER SIDE
そう殴り書きされたページを開いて場所を確認している。
「その前にいこうか?」俺はレナの判断を待った。
「・・・そうだね。きっと会社の前なら秘書とかSPに
取り囲まれるだろうし。」
「レナ。真実を確認したいのか?」
これ以上彼女に冒険をさせていいのか。
見たくないものまで見る必要があるのか。
知りたくないことまで知る必要があるのか。
「そのためにNYまでわざわざ来たんだから。」
レナはしっかり俺のほうをみて強く言った。
その表情をみて俺はついていくことにした。
だが、強気な彼女だったがそれは素振りであることを
俺は見抜いていた。実は彼女がかすかに震えていた
から。後は彼女の意志を尊重するのみだろう。
殺伐としたウォール街を後にしてタクシーで
ブルジョワジーたちの高級ホテル街へと繰り出す。
静かな空気の中で俺は息を吸い込む。肺の中まで
汚れた空気が浸透していく。汚い大人たちのように
俺もなっていくのだろうか。島根に戻りたいとふと
俺はおもう。
ホテル「リバーサイド」まで俺たちは来た。
壮大な概観でプールまで付いていた。白い色を基調とした
レンガ造りで歴史ある空間を作り出すために独自の
加工が施されている。
さっきからだまったままのレナの後ろ姿を俺は一瞥する。
取締役のような貫禄のある男がロビーに入ってきた。
男はきれいに整髪されたオールバックに、厳かな表情
できびきび歩いている。少し神経質そうな感じだ。
その男をみているとレナがふいに言った。
「あれが、私の父親よ。」
to be continued……
第4話(4)FIGHT FOR YOUR LIGHT
------------------------
NYの夜は日本より長く感じられた。
街に飛び交う言葉はスラングだらけの英語達。
教科書では教えてくれないリアルなNYの言葉が
吐き出されては消えていく。マディスン・スクエア・ガーデン
が街頭に照らされそびえたっている。
時々俺はこんなことを考える。人はどこに向かって生き
どこに終着駅を求めるのか。そんな何気ないようで誰も示してくれることない解答を欲するべく
今日も日常を生きているのだろうか。ここ数ヶ月はさまざまな
ことが起こったせいか時間が濃縮されている気がする。
人は旅に出ると一日をあっという間に感じる。日常から抜け出し
さまざまな人に出会い、新しい未知の世界に踏み入れ知的
好奇心をくすぐられる。年をとるほど新しい刺激はなくなり、
日々は単調になる。そして一日が早く終わるように感じる。
昔、近所のおじさんの楠田さんが言っていた言葉を思い出す。
「年齢はすべてが平等に与えられているんじゃないんだよ。歳を
くうとともに
比例してその時間の体感度は進みだすんだ。」
俺は今20歳。
ここまでくるまでも気づいてみたらあっという間だったが
40歳になったときはもっと早く感じられるというのか。
タバコに火をつけぼんやりと俺はNYの街を見渡す。
どこか渋谷に似た空気を感じる。渋谷と違い個性豊かな
光景だが、その根底にあるのは変わらないきがする。
またあの渋谷の交差点の雑踏を思い出しそれをNYの街並み
と重ね合わせてみる。俺はふいに眩暈がした。また何かに
吸い込まれそうな感覚だ。この街のどこかにブラックホール
があって俺はそこに吸い寄せられるかのように。
この交差点で俺だけに焦点をあわせられシャッターを切られた
一枚のモノクロ写真。俺はなぜかそんなイメージを脳裏にかすめた。
俺の人生は誰かに操られているのか。この運命も変えることが
できないのだろうか。いつになく弱気になっている俺は頬を
叩いた。
もうすぐ、レナとの待ち合わせ場所に着く。
擦り切れたジーンズに今も変わらず履きつぶしたローカットの
真っ赤なコンバースのまま俺は青信号に変わった交差点を横切って消えていった。
ENDING曲:マニックストリートプリーチャーズ
「IF YOU TOLERATE THIS YOUR CHILDREN WILL
BE NEXT」
to be continued....
------------------------
NYの夜は日本より長く感じられた。
街に飛び交う言葉はスラングだらけの英語達。
教科書では教えてくれないリアルなNYの言葉が
吐き出されては消えていく。マディスン・スクエア・ガーデン
が街頭に照らされそびえたっている。
時々俺はこんなことを考える。人はどこに向かって生き
どこに終着駅を求めるのか。そんな何気ないようで誰も示してくれることない解答を欲するべく
今日も日常を生きているのだろうか。ここ数ヶ月はさまざまな
ことが起こったせいか時間が濃縮されている気がする。
人は旅に出ると一日をあっという間に感じる。日常から抜け出し
さまざまな人に出会い、新しい未知の世界に踏み入れ知的
好奇心をくすぐられる。年をとるほど新しい刺激はなくなり、
日々は単調になる。そして一日が早く終わるように感じる。
昔、近所のおじさんの楠田さんが言っていた言葉を思い出す。
「年齢はすべてが平等に与えられているんじゃないんだよ。歳を
くうとともに
比例してその時間の体感度は進みだすんだ。」
俺は今20歳。
ここまでくるまでも気づいてみたらあっという間だったが
40歳になったときはもっと早く感じられるというのか。
タバコに火をつけぼんやりと俺はNYの街を見渡す。
どこか渋谷に似た空気を感じる。渋谷と違い個性豊かな
光景だが、その根底にあるのは変わらないきがする。
またあの渋谷の交差点の雑踏を思い出しそれをNYの街並み
と重ね合わせてみる。俺はふいに眩暈がした。また何かに
吸い込まれそうな感覚だ。この街のどこかにブラックホール
があって俺はそこに吸い寄せられるかのように。
この交差点で俺だけに焦点をあわせられシャッターを切られた
一枚のモノクロ写真。俺はなぜかそんなイメージを脳裏にかすめた。
俺の人生は誰かに操られているのか。この運命も変えることが
できないのだろうか。いつになく弱気になっている俺は頬を
叩いた。
もうすぐ、レナとの待ち合わせ場所に着く。
擦り切れたジーンズに今も変わらず履きつぶしたローカットの
真っ赤なコンバースのまま俺は青信号に変わった交差点を横切って消えていった。
ENDING曲:マニックストリートプリーチャーズ
「IF YOU TOLERATE THIS YOUR CHILDREN WILL
BE NEXT」
to be continued....
第4話 FIGHT FOR YOUR LIGHT (2)
2005年11月28日 小説 随筆第4話(2)
---------------------------------
「ハル。ほんとにきてくれたんだ。」知子は破顔一笑した。
「約束だったからな。」時は遡って2002年。知子がアメリカに行く前
必ず3年後の冬にいくと言った俺。あの時といまとではなにもかもが
ちがう俺たち。でも変わらないのは今こうしてみつめあっている微笑だけだ。
知子は必死に右腕を動かしてあのときのサイン。そう。水平線を示して笑って
みせた。俺はそれにならっておどけてみせた。
「ねえ。ハル。わたしたちこうやって再会できたらある約束してたよね?」
知子は潤んだ瞳でまるで少女のように言った。
「さあ?」俺は忘れるわけないだろと思いながらも気恥ずかしさからわざと
そっけない振りをした。
ちらっと知子のほうをみると彼女は目を閉じていた。
俺は一呼吸おくと彼女のやわらかい唇に自分の唇を重ねた。
「Hey!!Whats up? Please get UP!! Haruki!!」
訳のわからない英語が早口でまくしたてられる。
俺はいつのまに眠ってしまっていた。
気づくと日が明けていた。足元には毛布がかけられていた。
そして肝心の知子は。相変わらず酸素マスクをつけて眠っていた。
そう。すべて夢だったのだ。
彼女は血色のない顔色をしていた。鏡の中の俺をみた。俺も寝てないせいか
クマができていた。
大学のキャンパスへ出てみる。
向こうでは談笑して遠くからちかづいてくるハーバード生がいた。
彼らは希望に満ち溢れ楽しそうに話していた。
俺は今の自分の惨めさに身を隠したい気持ちになる。
SMOKE AREAにいってマイルドセヴンに火をつける。
と思ったがライターがどこにもない。ポケットなどをさぐって
いると同い年くらいの男がきた。金髪ですこしカールがかかった
外国人特有の髪型。すっと通った鼻筋に青い瞳をしていた。
俺は「Could you borrow your righter?」とその男に言った。
「Sure.」彼はきさくに俺にライターを貸してくれた。
俺のしょぼい英語力で彼と片言の会話をした。
彼の名前はダニエル。いまはシニアつまり大学3回生である。
アメリカンフットボールのクォーターをやっているらしく強そうだった。
そんな逞しい彼は俺にこっちに来ないのか?といってきた。
俺は知子のことを簡単に言った。気の毒に。と彼はいった。
よかったら今晩俺のいきつけのBARにこいよ。と彼は言った。
俺は彼女の容態を確認していくといって別れた。
---------------------------------
病室にもどっても状況はまったく変わらない。
相変わらずの社会と切り離されたような世界。ICU。
3時間ほど彼女に話しかけ続けた。
「おまえ、また島根にいっしょにいくんじゃないのか?」
「これおまえが好きだった,たまごっちだよまたはやってんだぜ?」
「ほら、あの花火大会覚えてるか?おまえまじでびびってたな」
俺の言葉はすべて一方通行だ。会話のキャッチボールというものが
そこには存在しない。あまりにも孤独感だったからだろうか。
俺は気分転換にダニエルのいったBARに行くことにした。
キャンパスをぬけて地下鉄で何駅かいったところにその
BARはあった。JAZZが店内には流れておりR&Bシンガーも
いた。ブルースは心に沁みる。俺は入り口で店内を見回していると
ダニエルが手をふって「HEY! Haru!!!」というのが聞こえた。
ダニエルは彼女のシンディをつれていた。シンディはブロンドの
ロングヘアーでおしゃれをしていた。すこしきつそうな性格といった
顔立ちであった。彫りの深い茶色い目をしていた。チアリーダーを
しているそうだ。ダニエルから紹介をうけて俺もハルとよんでくれ
といった。俺はカクテルを飲んだ。名前は、BITCH。
ビッチのようなあばずれのような荒んだ色合いだが味は上品な
ライムだ。なりは軽薄だが中身はあるのだ。ビッチを味わっていると
後ろで喧嘩が起こった。どうやらダニエルの連れらしい。
英語で何をいっているかわからなかったがFUCK!!FUCKIN
とやたらなお粗末な言葉ばかりつかわれている。俺はきにせず
BITCHを飲む。酔いが回ってきた。もう何もかもから逃げ出したかった。
左右隅のトイレではイラン人らしき男がヘロインの密売をしている。
とんでもないBARにきたと俺は思った。
いっそ俺もヘロインをうって知子とあの世にいっちまいたいと思った。
ダニエルは喧嘩の仲裁に入っている。よくある西部劇じゃねーんだから
と俺はおもいながらタバコを吸う。
あきらかにジャンキーな40代くらいの荒んだ身なりの男が
俺の横のカウンター席に座った。彼はじろじろこちらを見てきた。
まるで品定めするように。ダニエルは大声で言った。
「Its a show time!!!!」
仲裁と思っていたがどうやらこの喧嘩でどちらが勝つか賭けを
するというのだ。ほんとアメフトやってるやつらは考えが
アニマル並みだと俺は思いながらカクテルを飲み干す。
本当にこれこそまさにBITCHだなと思いでも熱いダニエル
たちに俺は顔をほころばした。
付き合いきれないと思いダニエルに右の細マッチヨに20ドル
といって俺は店を出て行った。 Tobe continued…..
――――――――――――
---------------------------------
「ハル。ほんとにきてくれたんだ。」知子は破顔一笑した。
「約束だったからな。」時は遡って2002年。知子がアメリカに行く前
必ず3年後の冬にいくと言った俺。あの時といまとではなにもかもが
ちがう俺たち。でも変わらないのは今こうしてみつめあっている微笑だけだ。
知子は必死に右腕を動かしてあのときのサイン。そう。水平線を示して笑って
みせた。俺はそれにならっておどけてみせた。
「ねえ。ハル。わたしたちこうやって再会できたらある約束してたよね?」
知子は潤んだ瞳でまるで少女のように言った。
「さあ?」俺は忘れるわけないだろと思いながらも気恥ずかしさからわざと
そっけない振りをした。
ちらっと知子のほうをみると彼女は目を閉じていた。
俺は一呼吸おくと彼女のやわらかい唇に自分の唇を重ねた。
「Hey!!Whats up? Please get UP!! Haruki!!」
訳のわからない英語が早口でまくしたてられる。
俺はいつのまに眠ってしまっていた。
気づくと日が明けていた。足元には毛布がかけられていた。
そして肝心の知子は。相変わらず酸素マスクをつけて眠っていた。
そう。すべて夢だったのだ。
彼女は血色のない顔色をしていた。鏡の中の俺をみた。俺も寝てないせいか
クマができていた。
大学のキャンパスへ出てみる。
向こうでは談笑して遠くからちかづいてくるハーバード生がいた。
彼らは希望に満ち溢れ楽しそうに話していた。
俺は今の自分の惨めさに身を隠したい気持ちになる。
SMOKE AREAにいってマイルドセヴンに火をつける。
と思ったがライターがどこにもない。ポケットなどをさぐって
いると同い年くらいの男がきた。金髪ですこしカールがかかった
外国人特有の髪型。すっと通った鼻筋に青い瞳をしていた。
俺は「Could you borrow your righter?」とその男に言った。
「Sure.」彼はきさくに俺にライターを貸してくれた。
俺のしょぼい英語力で彼と片言の会話をした。
彼の名前はダニエル。いまはシニアつまり大学3回生である。
アメリカンフットボールのクォーターをやっているらしく強そうだった。
そんな逞しい彼は俺にこっちに来ないのか?といってきた。
俺は知子のことを簡単に言った。気の毒に。と彼はいった。
よかったら今晩俺のいきつけのBARにこいよ。と彼は言った。
俺は彼女の容態を確認していくといって別れた。
---------------------------------
病室にもどっても状況はまったく変わらない。
相変わらずの社会と切り離されたような世界。ICU。
3時間ほど彼女に話しかけ続けた。
「おまえ、また島根にいっしょにいくんじゃないのか?」
「これおまえが好きだった,たまごっちだよまたはやってんだぜ?」
「ほら、あの花火大会覚えてるか?おまえまじでびびってたな」
俺の言葉はすべて一方通行だ。会話のキャッチボールというものが
そこには存在しない。あまりにも孤独感だったからだろうか。
俺は気分転換にダニエルのいったBARに行くことにした。
キャンパスをぬけて地下鉄で何駅かいったところにその
BARはあった。JAZZが店内には流れておりR&Bシンガーも
いた。ブルースは心に沁みる。俺は入り口で店内を見回していると
ダニエルが手をふって「HEY! Haru!!!」というのが聞こえた。
ダニエルは彼女のシンディをつれていた。シンディはブロンドの
ロングヘアーでおしゃれをしていた。すこしきつそうな性格といった
顔立ちであった。彫りの深い茶色い目をしていた。チアリーダーを
しているそうだ。ダニエルから紹介をうけて俺もハルとよんでくれ
といった。俺はカクテルを飲んだ。名前は、BITCH。
ビッチのようなあばずれのような荒んだ色合いだが味は上品な
ライムだ。なりは軽薄だが中身はあるのだ。ビッチを味わっていると
後ろで喧嘩が起こった。どうやらダニエルの連れらしい。
英語で何をいっているかわからなかったがFUCK!!FUCKIN
とやたらなお粗末な言葉ばかりつかわれている。俺はきにせず
BITCHを飲む。酔いが回ってきた。もう何もかもから逃げ出したかった。
左右隅のトイレではイラン人らしき男がヘロインの密売をしている。
とんでもないBARにきたと俺は思った。
いっそ俺もヘロインをうって知子とあの世にいっちまいたいと思った。
ダニエルは喧嘩の仲裁に入っている。よくある西部劇じゃねーんだから
と俺はおもいながらタバコを吸う。
あきらかにジャンキーな40代くらいの荒んだ身なりの男が
俺の横のカウンター席に座った。彼はじろじろこちらを見てきた。
まるで品定めするように。ダニエルは大声で言った。
「Its a show time!!!!」
仲裁と思っていたがどうやらこの喧嘩でどちらが勝つか賭けを
するというのだ。ほんとアメフトやってるやつらは考えが
アニマル並みだと俺は思いながらカクテルを飲み干す。
本当にこれこそまさにBITCHだなと思いでも熱いダニエル
たちに俺は顔をほころばした。
付き合いきれないと思いダニエルに右の細マッチヨに20ドル
といって俺は店を出て行った。 Tobe continued…..
――――――――――――
第4話 「Fight for your light」
2005年11月28日 小説 随筆第4話(1)
--------------------
時は流れていく。俺の意志とは無関係に。季節も移り変わっていく。
寒さがしみる季節がついに到来した。あの日から3年が経った。
知子の手術の是非がわかる日がついに来るのだ。
明昌大学もついに冬休みを迎えた。俺は渡米するための身支度を始めた。
渡米というほど大げさなものではない。今回は観光ではなく約束を果たすため
だから。俺は誰にもつげることなくボストンバッグを担いだ。なにもなく閑散
とした自分の部屋を何気なく眺める。俺のPCが置いてある机の横に立てている
写真立て。俺が高校2年のときに知子ととった2ショット写真だ。眩しい笑顔で
俺たちは思いおもいのポーズをとってカメラにむかっていた。変色した写真が
セピア色に色褪せていく。時間が経つにつれ鮮明だった楽しかった思い出も
色褪せていくのだろうか。俺はニット帽を目深にかぶりドアを開けた。
ふと昨日のレナの言葉を思い出す。実の両親だと信じていたその事実が
突然崩れたとき人はどういう反応を示すだろうか。俺がそういう立場にたったら
おそらく今までのスタンスを貫き続ける自信はない。
俺があの夜、東京湾に連れて行ったときにいった言葉がよかったかはわからない。
「今は知子のことだけ考えよう。」俺は無数の雑念を振り払うかのように自分に
言い聞かせた。筋萎萎縮症について宮元主治医から聞いたことを思い出した。
宮元医師は俺にこういった。
「この病気は主に脊髄から筋肉に至る部位の運動神経が破壊される、原因不明の疾病です。大脳からの命令が筋肉に伝わらず、筋肉が働かないために萎縮し、また徐々に麻痺します。個人差がありますが、数ヵ月から数年の間に徐々に全身が麻痺します。 」
なにがなんだかわからなかった。ただ頭にあるのは知子は助かるのかとい言葉だけが俺の頭の
中を渦巻いていた。成田空港に俺は向かった。JAL15便、ニューヨーク行き。
15時間ほどかけて空港へ降り立つ。
そして知子が治療を受けているハーバード大学へいくため、地下鉄でマサチューセッツ
州にあるケンブリッジへとむかう。大学の中核はボストン近郊ケンブリッジCambridgeのハーバードヤードHarvard Yardを中心とするケンブリッジキャンパスである。
メディカルスクールや大学院もあり非常に優秀な人材が揃っている。すべてを賭けていた。
時差の影響でボストン入りしたときには真夜中になっていた。予約しておいたモーテル
へ俺はチェックインする。色とりどりに彩られたネオンライト。まさに人種のるつぼだ。
白人、アメリカ系黒人、ヒスパニッシュ様々な人間がストリートを徘徊している。
みなアジア人の俺には無関心だ。というよりも外国人だらけのアメリカは共存という
感覚が普通なのであろう。島国である日本では日本人しかいないから外国人をついつい
みてしまうが。
なんとも粗悪な夕食をだされて俺はなんともいえない表情で食べていたろう。
コンビニらしきものでも店員はふんぞりかえって無愛想。日本ではありえない光景だ。
これでサービス業をやっているのだからすごい。というより日本が他国にKAROUSHIと表現されるくらい働きすぎなんだと俺は思った。
キャンパスにはいるとジョン・ハーバード像があった。厳かな外観。この足先に触れば
幸せが訪れるという言い伝えがあるそうだ。俺は藁にもすがるおもいで足先に触れる。
そしてメディカルスクールへとむかう。ここは大学院で医学の最先端を学ぶものが通って
いるところだ。
俺は東都大学医学部の高橋教授から紹介された、Drコヴィー氏はいるかどうか受付
で聞いた。こころよい応対で奥の応接室へと通された。コヴィー氏は笑顔で俺を迎え
てくれた。「Please、Sit Down. Dont Worry.」博士はそういってくれた。
図などを使っていろいろ説明を受けた。博士の顔がしだいに険しくなっていくのが読み取れた。最先端の手術を試みたが経過は芳しくないようだ。「May I meet her?」
俺は片言の英語でそういった。博士は助手に部屋を案内するように言った。
案内された場所にはこう書いてあった。ICU。テレビでみたことしかない光景を
目の当たりにして俺は息が詰まりそうになる。集中治療室だ。
分厚い扉を助手が開ける。その扉が閉まるとき外界から遮断されたような感覚がした。
点滴のぽとっぽとっという音、心電図の音すべてが一定のリズムを打つ。
「知子・・・」俺は弱々しく言った。彼女はすっかりか細くなって酸素マスクを
つけていた。これがあの知子?3年という時間がいままさに暴力的にすら思える。
時間というイタズラな罠が彼女をどんどん弱らせていく。
俺はベッドの横までいってかがんで言った。
「知子。わかるか?俺だ。ハルだ!」俺は知子に伝わるように言った。
知子は眠ったまま反応がない。助手がそれを見かねてこう言った。
「She has been slept since three months ago.」
俺はそれを無視して手を握った。
それは機械のように冷たい。生命が宿っていないかのような冷たさだ。
たしかに心臓の鼓動は聞こえるが生きている証が見当たらない。
いったいこの3年間で彼女はどのような扱いを受けてきたというのか。
1時間。2時間。3時間。俺はその病室に居続けた。
5時間後、博士が病室にはいってきてこういった。知子がまだ元気なとき、
ハルはどうしてるかってよくいっていたよ。また出雲の水平線を二人でみに
いくんだ。って。そこではじめてのキスをするんだってね。博士は微笑みながら
言った。深夜になっても俺はそこに居続けた。なにかに取り付かれたように
ただそこに居た。
俺がうたた寝をはじめたころだったろうか。
ふいにか細い声が俺の耳をかすめる。
「・・・・る?・・・・ル?」
俺は眠い目をこすりながらなんだろうと目を覚ます。
「・・・なの?ハルなの?」
俺は一気に覚醒する。知子がしゃべっているのだ。
ついに目を覚ましたのだろうか。
「ともこ?」俺は彼女にささやいた。
「ハル。。」彼女は優しい微笑みを浮かべていた。
顔の表情筋はまだ健常であった。昔のままの面影が浮かび上がる。
「春樹。。会いたかった。」知子はそういった。
俺は言いたいことがありすぎて何もいえなかった。
ただ手を握り締めることしか。ただ傍にいることだけしかできなかった。
To be continued……
--------------------
時は流れていく。俺の意志とは無関係に。季節も移り変わっていく。
寒さがしみる季節がついに到来した。あの日から3年が経った。
知子の手術の是非がわかる日がついに来るのだ。
明昌大学もついに冬休みを迎えた。俺は渡米するための身支度を始めた。
渡米というほど大げさなものではない。今回は観光ではなく約束を果たすため
だから。俺は誰にもつげることなくボストンバッグを担いだ。なにもなく閑散
とした自分の部屋を何気なく眺める。俺のPCが置いてある机の横に立てている
写真立て。俺が高校2年のときに知子ととった2ショット写真だ。眩しい笑顔で
俺たちは思いおもいのポーズをとってカメラにむかっていた。変色した写真が
セピア色に色褪せていく。時間が経つにつれ鮮明だった楽しかった思い出も
色褪せていくのだろうか。俺はニット帽を目深にかぶりドアを開けた。
ふと昨日のレナの言葉を思い出す。実の両親だと信じていたその事実が
突然崩れたとき人はどういう反応を示すだろうか。俺がそういう立場にたったら
おそらく今までのスタンスを貫き続ける自信はない。
俺があの夜、東京湾に連れて行ったときにいった言葉がよかったかはわからない。
「今は知子のことだけ考えよう。」俺は無数の雑念を振り払うかのように自分に
言い聞かせた。筋萎萎縮症について宮元主治医から聞いたことを思い出した。
宮元医師は俺にこういった。
「この病気は主に脊髄から筋肉に至る部位の運動神経が破壊される、原因不明の疾病です。大脳からの命令が筋肉に伝わらず、筋肉が働かないために萎縮し、また徐々に麻痺します。個人差がありますが、数ヵ月から数年の間に徐々に全身が麻痺します。 」
なにがなんだかわからなかった。ただ頭にあるのは知子は助かるのかとい言葉だけが俺の頭の
中を渦巻いていた。成田空港に俺は向かった。JAL15便、ニューヨーク行き。
15時間ほどかけて空港へ降り立つ。
そして知子が治療を受けているハーバード大学へいくため、地下鉄でマサチューセッツ
州にあるケンブリッジへとむかう。大学の中核はボストン近郊ケンブリッジCambridgeのハーバードヤードHarvard Yardを中心とするケンブリッジキャンパスである。
メディカルスクールや大学院もあり非常に優秀な人材が揃っている。すべてを賭けていた。
時差の影響でボストン入りしたときには真夜中になっていた。予約しておいたモーテル
へ俺はチェックインする。色とりどりに彩られたネオンライト。まさに人種のるつぼだ。
白人、アメリカ系黒人、ヒスパニッシュ様々な人間がストリートを徘徊している。
みなアジア人の俺には無関心だ。というよりも外国人だらけのアメリカは共存という
感覚が普通なのであろう。島国である日本では日本人しかいないから外国人をついつい
みてしまうが。
なんとも粗悪な夕食をだされて俺はなんともいえない表情で食べていたろう。
コンビニらしきものでも店員はふんぞりかえって無愛想。日本ではありえない光景だ。
これでサービス業をやっているのだからすごい。というより日本が他国にKAROUSHIと表現されるくらい働きすぎなんだと俺は思った。
キャンパスにはいるとジョン・ハーバード像があった。厳かな外観。この足先に触れば
幸せが訪れるという言い伝えがあるそうだ。俺は藁にもすがるおもいで足先に触れる。
そしてメディカルスクールへとむかう。ここは大学院で医学の最先端を学ぶものが通って
いるところだ。
俺は東都大学医学部の高橋教授から紹介された、Drコヴィー氏はいるかどうか受付
で聞いた。こころよい応対で奥の応接室へと通された。コヴィー氏は笑顔で俺を迎え
てくれた。「Please、Sit Down. Dont Worry.」博士はそういってくれた。
図などを使っていろいろ説明を受けた。博士の顔がしだいに険しくなっていくのが読み取れた。最先端の手術を試みたが経過は芳しくないようだ。「May I meet her?」
俺は片言の英語でそういった。博士は助手に部屋を案内するように言った。
案内された場所にはこう書いてあった。ICU。テレビでみたことしかない光景を
目の当たりにして俺は息が詰まりそうになる。集中治療室だ。
分厚い扉を助手が開ける。その扉が閉まるとき外界から遮断されたような感覚がした。
点滴のぽとっぽとっという音、心電図の音すべてが一定のリズムを打つ。
「知子・・・」俺は弱々しく言った。彼女はすっかりか細くなって酸素マスクを
つけていた。これがあの知子?3年という時間がいままさに暴力的にすら思える。
時間というイタズラな罠が彼女をどんどん弱らせていく。
俺はベッドの横までいってかがんで言った。
「知子。わかるか?俺だ。ハルだ!」俺は知子に伝わるように言った。
知子は眠ったまま反応がない。助手がそれを見かねてこう言った。
「She has been slept since three months ago.」
俺はそれを無視して手を握った。
それは機械のように冷たい。生命が宿っていないかのような冷たさだ。
たしかに心臓の鼓動は聞こえるが生きている証が見当たらない。
いったいこの3年間で彼女はどのような扱いを受けてきたというのか。
1時間。2時間。3時間。俺はその病室に居続けた。
5時間後、博士が病室にはいってきてこういった。知子がまだ元気なとき、
ハルはどうしてるかってよくいっていたよ。また出雲の水平線を二人でみに
いくんだ。って。そこではじめてのキスをするんだってね。博士は微笑みながら
言った。深夜になっても俺はそこに居続けた。なにかに取り付かれたように
ただそこに居た。
俺がうたた寝をはじめたころだったろうか。
ふいにか細い声が俺の耳をかすめる。
「・・・・る?・・・・ル?」
俺は眠い目をこすりながらなんだろうと目を覚ます。
「・・・なの?ハルなの?」
俺は一気に覚醒する。知子がしゃべっているのだ。
ついに目を覚ましたのだろうか。
「ともこ?」俺は彼女にささやいた。
「ハル。。」彼女は優しい微笑みを浮かべていた。
顔の表情筋はまだ健常であった。昔のままの面影が浮かび上がる。
「春樹。。会いたかった。」知子はそういった。
俺は言いたいことがありすぎて何もいえなかった。
ただ手を握り締めることしか。ただ傍にいることだけしかできなかった。
To be continued……
連続3回更新しております。お気に入りに登録
してくれている方は3つ下からお読みくださいませ。
一回更新文字が最大3000文字までなので3回に
わけて読みづらくなっておりますがご了承くださいませ。
3話/全5話
------------------------------
「文面にはそう書いてあったんだ。そしてその後ろに預金通帳が俺名義で
振り込んであったんだ。300万ほどね。俺が大学いけるようにって
親父がこつこつ貯めてくれてたんだ。一生懸命働いて親父はまったく遊びもせずにな。
んで俺はほんとに親父に迷惑かけたなって。ぜんぜん親父のこと大切にしてやんなかったって後悔したと同時につかれきった親父の寝顔をみて親父の強さを知った。」
レナは黙って俺を見つめていた。
「でもな。どうしてここまで強いんだっておもったよ。親父も
誰かに甘えたかったんだろうなって思った。時々人にたよったって
いいじゃねーかってさ。だからレナ。おまえもたまには俺でもいいし
みんなにもっと甘えてみろよ。自分をさらけだしてみろよ。まあ俺たち似たもん
同士なのかもな。」
それは俺自身にむけて言った言葉でもあった。
レナはいつのまに涙を流していた。閉ざし続けた心の奥底に秘めているものが
あふれ出すかのように。俺たちは変わらず輝き続けるオリオン座を白い
息をはきながら見つめていた。
第3話終了 to be continued・・・第4話
してくれている方は3つ下からお読みくださいませ。
一回更新文字が最大3000文字までなので3回に
わけて読みづらくなっておりますがご了承くださいませ。
3話/全5話
------------------------------
「文面にはそう書いてあったんだ。そしてその後ろに預金通帳が俺名義で
振り込んであったんだ。300万ほどね。俺が大学いけるようにって
親父がこつこつ貯めてくれてたんだ。一生懸命働いて親父はまったく遊びもせずにな。
んで俺はほんとに親父に迷惑かけたなって。ぜんぜん親父のこと大切にしてやんなかったって後悔したと同時につかれきった親父の寝顔をみて親父の強さを知った。」
レナは黙って俺を見つめていた。
「でもな。どうしてここまで強いんだっておもったよ。親父も
誰かに甘えたかったんだろうなって思った。時々人にたよったって
いいじゃねーかってさ。だからレナ。おまえもたまには俺でもいいし
みんなにもっと甘えてみろよ。自分をさらけだしてみろよ。まあ俺たち似たもん
同士なのかもな。」
それは俺自身にむけて言った言葉でもあった。
レナはいつのまに涙を流していた。閉ざし続けた心の奥底に秘めているものが
あふれ出すかのように。俺たちは変わらず輝き続けるオリオン座を白い
息をはきながら見つめていた。
第3話終了 to be continued・・・第4話
水平線 3話(5) 全5話
2005年11月24日 小説 随筆-------------------------------------------
俺はいつものようにサブ、達也たちと講義をうけていた。
教授は熱弁しているが、学生のほうは完全におざなりだ。
サブと達也はいつものように熟睡している。俺は少し興味
のある話だったので教授の話を聞いていた。確か、ドゥルケム
のアノミー論の類のはなしだ。裕福で暇をもてあましている国
のほうが貧しい国よりも自殺率が高いそうだ。なんとなく俺自身
にその話は合ってるなと思ってしまった。ふと集中力が途切れ
視線を右斜め前に移す。するとレナも同じ教室にいた。
相変わらず露出度が高い格好である。
チャイムがなり教授は講義を終えると足早に
教室を出て行った。俺はレナのほうに近づいていって「よう。」と
言った。「あ、春樹君。帰ってきたんだ。」
「おうよ。」俺は元気に答えた。
「今日時間空いてる?」レナは俺の耳にそう囁いた。
「今日はバイトだ。わりぃ。」
「なーんだ付き合い悪いんだから。」レナは口を尖らせて言った。
-----------------------------
「おはようございます!!」俺は元気よく声を出した。
結構ここでの仕事も長い。なんの仕事というと、TV局でのアシスタントのバイトだ。地下鉄メトロ線でお台場へとバイトの日はむかう。
バイト先のディレクターさんは恐い人でよく俺のことを叱るが、非常に引き出しの多い人で俺は尊敬していた。
そして、様々な事ををここで吸収して成長していた。
今日もスタジオでのドラマ撮影の収録を手伝っていた。
「ぜってー視聴率とれなきゃいけねーんだよ!!」
ADの村田さんはそればかり
口癖にしていた。この業界のシビアな現実をバイトという気楽な立場の俺にも感じさせた。
バイトが終わり疲れきってノジTVをでると自動ドアの前になんとレナが立っていた。
「なにしてんだよ!そんなとこで!?」俺は思わず素っ頓狂なトーンで言った。
「なにってみりゃわかるじゃない。待ってたの」レナは不機嫌さまるだしで言う。
「待ってたっておまえさ。そんな格好で寒いだろ?ったく。しゃあないな。」
俺はノジTV警備員に社員証を見せてもう一度ビルのロビーへとむかう。
「あっこいつ俺の連れなんですけどいっしょにいれてやってもいいですかね。すぐ
に出ますんで。」
そう俺がいうと警備員さんは
柔和な笑顔で「もちろん。いいですよ」と言ってくれた。俺は「お疲れ様です。」
と笑顔でかるく会釈した。俺はレナを連れてロビーまで行く。
ゴトン。鈍い音がして缶コーヒーが取り出し口に落ちる。俺は身をかがめて缶を2つ分
とりだす。「ほいっ。」 俺は缶コーヒーをレナに投げた。
警備員にもう一度会釈してからノジTV局をでる。
駐車場まで歩いていき俺のバイクの前までくると「よし。乗れ。」と俺が言う。
メットはこれだからとこれまたレナにむかって投げた。
レナはコーヒーをこぼさないように抱くようにメットをキャッチした。
「なんでも放り投げないでよ!」
そしてバイクに乗るのを確認して俺は、勢いよくエンジン音をならし
バイクを走らせた。お台場を抜け出し湾岸線を快調に飛ばす。30分ほどとばして
東京湾まで来た。そして俺はバイクを止めて「うーさみぃー」といいながら
堤防までレナといっしょに歩く。沈黙が続いたあとそれをかき消すかのようにレナが口を開いた。
「ねえ。なんでこんなとこきたの?」その堤防からレインボーブリッジが夜景に
彩られてゆれていた。そんなことはお構いなしにといわんばかりに
俺は缶コーヒーをぷしゅっと開けながら言った。
「おまえさ。まえ言ってたじゃん。男なんて女を道具としかみてねーとか
なんとかってさ。」さらに俺はマイルドセヴンに火をつける。気にせず俺は続ける。
「別にお前の価値観をどうこういうつもりはねーけどさ。おまえ本当に
好きになったやつに出会ったことねーだろ?」俺は敢えて冷たい声で言った。
「は?なんなの。こんなとこまで来て私にイヤミをいいたかったわけ?」
レナは顔をふくらましながら言う。
「まぁどうかしんねーけどさ、レナにはもっとふさわしい相手がいると思うぜ。」
レナは黙り込んだ。そして堤防にもたれて空をみた。オリオン座が俺らのちょうど頭の真上で輝いている。
「私ね。実は、本当の娘じゃないんだ。」
レナはふいにそう言った。
俺は黙って聞いていた。
「私のお父さんって外資系の証券マンで出張ばっかでさ。私が高校くらいの時にお母さんとお父さんが喧嘩で言い合いをしてるときに聞いちゃったの。愛人がいるとかどうたらでお母さんがそのことでいきりたっていきなり私のことを持ち出したの。」
今日はいつになく心を開いて話すレナに俺はすこし困惑していた。そのせいかタバコを吸うペースが速くなった。
「それで、お母さん、お父さんにむかって「あんたの愛人がレイプされてできた娘を私が
ここまで一人で育ててきたのにまだ愛人をつくるき!?いったい私はあなたにとって
なんなの!!」って半狂乱な声でいったの。」俺は生唾を飲んだ。一瞬表情をゆがめたが
すぐにいつもの冷静な顔に戻した。
「ドア越しからその話を聞いていた私は体が震えて崩れそう
になった。私はどこの誰ともわからない男と父親の愛人との間に生まれた子なんだって。
本当の両親と信じていたのに、嘘だと思いたかった。」
俺はこのときになってようやくレナが高校時代に荒れていた噂話の動機をすこし理解で
きたきがした。俺はちきしょという苦虫をつぶしたような顔をしたあとこういった。
「なーに悲劇のヒロインですって面してんだよ。」
「な、なによそれ!」レナはふくれっつらで言った。
「なぐさめてって顔にかいてあんぞ。」俺はレナの顔を覗き込んで
いった。「いいか。レナ。誰にでも一度はそういう挫折があんだよ。」
「なにえらそうなこといってんのよ。」レナは俺に後ろ姿をみせていった。
「怖かったさ。」俺はそう突然呟いた。レナに聞いてもらうわけでもなく。
「??」レナは黙っていた。
「もう俺の母親がさ。死ぬってわかって俺でなんとかこれから
していかなきゃなんねえ
ってわかったとき。すげえ怖かった。」
「なんなのそれ?」
「俺の母親は俺が12歳のとき、死んだんだ。」俺は続けた。
「親父は仕事にのめりこんでいったよ。きっと寂しさをまぎらわすためだったん
だろうな。俺もさ、すげえやけになりそうだったよ。実際チンピラ予備軍みてえ
にもなった。でもさ、ある日俺が夜遊びして朝帰りして家に戻るとさ。
親父がネクタイしたままソファーで寝ててさ。そこに置手紙があったんだよ。
俺は親父がおきねえようにそっと自分の部屋にその手紙を持ち込んでよんだんだ。」
春樹へ。
おまえにはいつもつらい思いをさせてきた。本当にすまない。
母さんが死んでからおまえには
いい母親役を俺ができていたかはわからない。でもな俺はおまえに幸せになってもら
いたい。好きに生きろ。おまえのやりたいようにな。父さんはおまえが夢に
むかって生きることを期待しるよ。これからもよろしくな。
父より
俺はいつものようにサブ、達也たちと講義をうけていた。
教授は熱弁しているが、学生のほうは完全におざなりだ。
サブと達也はいつものように熟睡している。俺は少し興味
のある話だったので教授の話を聞いていた。確か、ドゥルケム
のアノミー論の類のはなしだ。裕福で暇をもてあましている国
のほうが貧しい国よりも自殺率が高いそうだ。なんとなく俺自身
にその話は合ってるなと思ってしまった。ふと集中力が途切れ
視線を右斜め前に移す。するとレナも同じ教室にいた。
相変わらず露出度が高い格好である。
チャイムがなり教授は講義を終えると足早に
教室を出て行った。俺はレナのほうに近づいていって「よう。」と
言った。「あ、春樹君。帰ってきたんだ。」
「おうよ。」俺は元気に答えた。
「今日時間空いてる?」レナは俺の耳にそう囁いた。
「今日はバイトだ。わりぃ。」
「なーんだ付き合い悪いんだから。」レナは口を尖らせて言った。
-----------------------------
「おはようございます!!」俺は元気よく声を出した。
結構ここでの仕事も長い。なんの仕事というと、TV局でのアシスタントのバイトだ。地下鉄メトロ線でお台場へとバイトの日はむかう。
バイト先のディレクターさんは恐い人でよく俺のことを叱るが、非常に引き出しの多い人で俺は尊敬していた。
そして、様々な事ををここで吸収して成長していた。
今日もスタジオでのドラマ撮影の収録を手伝っていた。
「ぜってー視聴率とれなきゃいけねーんだよ!!」
ADの村田さんはそればかり
口癖にしていた。この業界のシビアな現実をバイトという気楽な立場の俺にも感じさせた。
バイトが終わり疲れきってノジTVをでると自動ドアの前になんとレナが立っていた。
「なにしてんだよ!そんなとこで!?」俺は思わず素っ頓狂なトーンで言った。
「なにってみりゃわかるじゃない。待ってたの」レナは不機嫌さまるだしで言う。
「待ってたっておまえさ。そんな格好で寒いだろ?ったく。しゃあないな。」
俺はノジTV警備員に社員証を見せてもう一度ビルのロビーへとむかう。
「あっこいつ俺の連れなんですけどいっしょにいれてやってもいいですかね。すぐ
に出ますんで。」
そう俺がいうと警備員さんは
柔和な笑顔で「もちろん。いいですよ」と言ってくれた。俺は「お疲れ様です。」
と笑顔でかるく会釈した。俺はレナを連れてロビーまで行く。
ゴトン。鈍い音がして缶コーヒーが取り出し口に落ちる。俺は身をかがめて缶を2つ分
とりだす。「ほいっ。」 俺は缶コーヒーをレナに投げた。
警備員にもう一度会釈してからノジTV局をでる。
駐車場まで歩いていき俺のバイクの前までくると「よし。乗れ。」と俺が言う。
メットはこれだからとこれまたレナにむかって投げた。
レナはコーヒーをこぼさないように抱くようにメットをキャッチした。
「なんでも放り投げないでよ!」
そしてバイクに乗るのを確認して俺は、勢いよくエンジン音をならし
バイクを走らせた。お台場を抜け出し湾岸線を快調に飛ばす。30分ほどとばして
東京湾まで来た。そして俺はバイクを止めて「うーさみぃー」といいながら
堤防までレナといっしょに歩く。沈黙が続いたあとそれをかき消すかのようにレナが口を開いた。
「ねえ。なんでこんなとこきたの?」その堤防からレインボーブリッジが夜景に
彩られてゆれていた。そんなことはお構いなしにといわんばかりに
俺は缶コーヒーをぷしゅっと開けながら言った。
「おまえさ。まえ言ってたじゃん。男なんて女を道具としかみてねーとか
なんとかってさ。」さらに俺はマイルドセヴンに火をつける。気にせず俺は続ける。
「別にお前の価値観をどうこういうつもりはねーけどさ。おまえ本当に
好きになったやつに出会ったことねーだろ?」俺は敢えて冷たい声で言った。
「は?なんなの。こんなとこまで来て私にイヤミをいいたかったわけ?」
レナは顔をふくらましながら言う。
「まぁどうかしんねーけどさ、レナにはもっとふさわしい相手がいると思うぜ。」
レナは黙り込んだ。そして堤防にもたれて空をみた。オリオン座が俺らのちょうど頭の真上で輝いている。
「私ね。実は、本当の娘じゃないんだ。」
レナはふいにそう言った。
俺は黙って聞いていた。
「私のお父さんって外資系の証券マンで出張ばっかでさ。私が高校くらいの時にお母さんとお父さんが喧嘩で言い合いをしてるときに聞いちゃったの。愛人がいるとかどうたらでお母さんがそのことでいきりたっていきなり私のことを持ち出したの。」
今日はいつになく心を開いて話すレナに俺はすこし困惑していた。そのせいかタバコを吸うペースが速くなった。
「それで、お母さん、お父さんにむかって「あんたの愛人がレイプされてできた娘を私が
ここまで一人で育ててきたのにまだ愛人をつくるき!?いったい私はあなたにとって
なんなの!!」って半狂乱な声でいったの。」俺は生唾を飲んだ。一瞬表情をゆがめたが
すぐにいつもの冷静な顔に戻した。
「ドア越しからその話を聞いていた私は体が震えて崩れそう
になった。私はどこの誰ともわからない男と父親の愛人との間に生まれた子なんだって。
本当の両親と信じていたのに、嘘だと思いたかった。」
俺はこのときになってようやくレナが高校時代に荒れていた噂話の動機をすこし理解で
きたきがした。俺はちきしょという苦虫をつぶしたような顔をしたあとこういった。
「なーに悲劇のヒロインですって面してんだよ。」
「な、なによそれ!」レナはふくれっつらで言った。
「なぐさめてって顔にかいてあんぞ。」俺はレナの顔を覗き込んで
いった。「いいか。レナ。誰にでも一度はそういう挫折があんだよ。」
「なにえらそうなこといってんのよ。」レナは俺に後ろ姿をみせていった。
「怖かったさ。」俺はそう突然呟いた。レナに聞いてもらうわけでもなく。
「??」レナは黙っていた。
「もう俺の母親がさ。死ぬってわかって俺でなんとかこれから
していかなきゃなんねえ
ってわかったとき。すげえ怖かった。」
「なんなのそれ?」
「俺の母親は俺が12歳のとき、死んだんだ。」俺は続けた。
「親父は仕事にのめりこんでいったよ。きっと寂しさをまぎらわすためだったん
だろうな。俺もさ、すげえやけになりそうだったよ。実際チンピラ予備軍みてえ
にもなった。でもさ、ある日俺が夜遊びして朝帰りして家に戻るとさ。
親父がネクタイしたままソファーで寝ててさ。そこに置手紙があったんだよ。
俺は親父がおきねえようにそっと自分の部屋にその手紙を持ち込んでよんだんだ。」
春樹へ。
おまえにはいつもつらい思いをさせてきた。本当にすまない。
母さんが死んでからおまえには
いい母親役を俺ができていたかはわからない。でもな俺はおまえに幸せになってもら
いたい。好きに生きろ。おまえのやりたいようにな。父さんはおまえが夢に
むかって生きることを期待しるよ。これからもよろしくな。
父より
水平線 第3話(4)
2005年11月24日 小説 随筆しばらく活動休止期間をいただいておりました。
まあ俺の編集長のM氏の激励もあり水平線執筆
はしておりましたので続きを書きます。
個人的には昨日今日とバイトで忙しかったです。
代返してくれたOくんありがとね。
では続きです。
--------------------------------
水平線 第3話/「失くした物。真実の扉」 全5話
タバコに火をつけ目を細める俺。いつだってあいつは傍にいた。
渋谷を歩いているとどこからともなく冬の匂いがした。もうすぐ
冬が来る。世間ではクリスマスまでにシングルがいやだから彼女
彼氏が欲しいという話題で学内はもちきりだった。
俺には心のぽかんと開いた空洞のようなものがある。それが
なにかって?俺にもそれは分からない。ただ知子がアメリカにいって
からこの感覚は起こった。それも継続的にね。がらんとした4畳一間
の片隅に俺はうずくまっているような感じである。TVをつけっぱなし
にして、PCにきているメールをチェックしていると、チャイムが
なった。「ったく。誰だよ。」俺は眉間に皴を寄せてドアの穴をのぞき
こんだ。するとサブが身をかがめてたっていた。「ハル!いるんだろ?」
マンションに響き渡るくらい大声でやつはいった.あいつ!俺は恥ずかしい
のに絶えるのもいやなので、ドアをあけた。
サブは遠慮もなしにずかずかと俺の部屋にあがってきた。
「コーヒーでいいだろ?」俺は返事も確認しないままにカップをだす。
「なーハル。最近、おまえちょっとおかしいぜ?」
「なにがだよ。」俺はタバコを灰皿におしつけて言った。
「まーなんかわかんねーけど一人で何か背負い込んでる気がするな。」
サブが意外に観察力のある男だと2年の付き合いで今はじめてしった。
「そんなことねーよ。」俺は淹れたてのコーヒーを喉に押し込んで言った。
サブに心の中を見透かされている気がしてすこし動揺した。
俺は昔から強がって弱いところを人に見せない人間だった。
どうしても人に甘えることができないのだ。
「もっと素直になれよ。」サブは肩をすくめて言った。
「なぁサブ。お前は本当に好きな女が死んだらどうする?」
俺は唐突にそんなことをサブに聞いてみた。
「どーだろな。死んだらどーすることもできねーしな。」
愛するものとの死別という体験をしていない若者の俺たちには到底答えはでなかった。
しばらくたわいもない話をしていると、サブはこう言った。
「ハル、おまえ、ともこのこと忘れられないのか?」
いつになく真剣な表情だ。
「サブ。ちょっとした話をおまえに聞かせるよ。」サブはなんだよという
顔つきでこっちを見た。
「ある女は難病で死を迎えた。そしてその恋人の男は毎年ある場所を
訪れ彼女のことをおもうんだ。そうすると、なんとも悲しい気持ちに
なるんだが、彼女に会える気がするんだ。そしてその男性は10年後
にその彼女の発病のきっかけが病院の医療ミスで起こったことをひょんな
ことからカルテを見つけてしってしまうんだ。その男は病院を憎んだ。どうして
患者を取り違えるなんてありえないミスを起こしたんだって。」そこで俺は目を
ほそめタバコに火をつけた。サブは俺の話に聞き入っていた。
「彼は復讐に燃えた。そして裁判を起こしたが結局病院側の過失致死罪も一部しか
認められず、結果的に敗訴となったんだ。」そこで俺はサブの顔をみてこういった。
「その男性っていうのは俺の親父で、女性は俺の母親なんだ。」
そういった俺自身鳥肌がたってしまった。しばらくの沈黙の後サブは重い空気を
かきかすかのごとく口を開いた。
「ハル。おまえそんな両親がつらい体験をしてたのか?・・・・なのに
おまえまるでその災難の再現がおまえにおころうとしてる
じゃないか。」
「まあ待ってくれ。」俺はサブの声をさえぎった。
「俺はな。死なせない。どんなことがあっても。どんなてぇ使ってもあいつ
を死なせない。それだけだ。」俺は怒りかどうかわからないが全身に力がみなぎるの
がわかった。
----------------------------------------
翌日:AM10時
今日も、明昌大学は多くの学生で賑わっていた。
俺がキャンパスを歩いていると直哉がきた。
「よう!!!はる!」
「ういっす。」俺は笑顔で手を上げた。
「おまえ地元に戻ったんだって?なにしてきたんだよ。」
「まーいいじゃねーか。それより。おまえに聞きたいことがある。」
俺はそろそろ潮時だと思って例の件を切り出すことにした。
「なんだよ?あらたまってよ。」
「おまえ、ななみとつきあってんのか?」俺は直哉の目を直視して
言った。
しばらく、直哉は黙ったあと照れくさそうに言った。こういうときに
頭をぽりぽり掻くとこも昔から変わっていない。そんなやつをみて俺は
吹き出した。「まーな。つきあってるよ。」
「そっか。よかったじゃねーか。ゼミ同士だし仲良くな。」
そういって俺が立ち去ろうとすると後ろから直哉がこう言った。
「ハル!!負けんじゃねーぞ!知子はぜってー治って日本に
戻ってくる!!!」
俺は直哉のほうをみないでVサインをそら高くかざした。
to be continued…..
まあ俺の編集長のM氏の激励もあり水平線執筆
はしておりましたので続きを書きます。
個人的には昨日今日とバイトで忙しかったです。
代返してくれたOくんありがとね。
では続きです。
--------------------------------
水平線 第3話/「失くした物。真実の扉」 全5話
タバコに火をつけ目を細める俺。いつだってあいつは傍にいた。
渋谷を歩いているとどこからともなく冬の匂いがした。もうすぐ
冬が来る。世間ではクリスマスまでにシングルがいやだから彼女
彼氏が欲しいという話題で学内はもちきりだった。
俺には心のぽかんと開いた空洞のようなものがある。それが
なにかって?俺にもそれは分からない。ただ知子がアメリカにいって
からこの感覚は起こった。それも継続的にね。がらんとした4畳一間
の片隅に俺はうずくまっているような感じである。TVをつけっぱなし
にして、PCにきているメールをチェックしていると、チャイムが
なった。「ったく。誰だよ。」俺は眉間に皴を寄せてドアの穴をのぞき
こんだ。するとサブが身をかがめてたっていた。「ハル!いるんだろ?」
マンションに響き渡るくらい大声でやつはいった.あいつ!俺は恥ずかしい
のに絶えるのもいやなので、ドアをあけた。
サブは遠慮もなしにずかずかと俺の部屋にあがってきた。
「コーヒーでいいだろ?」俺は返事も確認しないままにカップをだす。
「なーハル。最近、おまえちょっとおかしいぜ?」
「なにがだよ。」俺はタバコを灰皿におしつけて言った。
「まーなんかわかんねーけど一人で何か背負い込んでる気がするな。」
サブが意外に観察力のある男だと2年の付き合いで今はじめてしった。
「そんなことねーよ。」俺は淹れたてのコーヒーを喉に押し込んで言った。
サブに心の中を見透かされている気がしてすこし動揺した。
俺は昔から強がって弱いところを人に見せない人間だった。
どうしても人に甘えることができないのだ。
「もっと素直になれよ。」サブは肩をすくめて言った。
「なぁサブ。お前は本当に好きな女が死んだらどうする?」
俺は唐突にそんなことをサブに聞いてみた。
「どーだろな。死んだらどーすることもできねーしな。」
愛するものとの死別という体験をしていない若者の俺たちには到底答えはでなかった。
しばらくたわいもない話をしていると、サブはこう言った。
「ハル、おまえ、ともこのこと忘れられないのか?」
いつになく真剣な表情だ。
「サブ。ちょっとした話をおまえに聞かせるよ。」サブはなんだよという
顔つきでこっちを見た。
「ある女は難病で死を迎えた。そしてその恋人の男は毎年ある場所を
訪れ彼女のことをおもうんだ。そうすると、なんとも悲しい気持ちに
なるんだが、彼女に会える気がするんだ。そしてその男性は10年後
にその彼女の発病のきっかけが病院の医療ミスで起こったことをひょんな
ことからカルテを見つけてしってしまうんだ。その男は病院を憎んだ。どうして
患者を取り違えるなんてありえないミスを起こしたんだって。」そこで俺は目を
ほそめタバコに火をつけた。サブは俺の話に聞き入っていた。
「彼は復讐に燃えた。そして裁判を起こしたが結局病院側の過失致死罪も一部しか
認められず、結果的に敗訴となったんだ。」そこで俺はサブの顔をみてこういった。
「その男性っていうのは俺の親父で、女性は俺の母親なんだ。」
そういった俺自身鳥肌がたってしまった。しばらくの沈黙の後サブは重い空気を
かきかすかのごとく口を開いた。
「ハル。おまえそんな両親がつらい体験をしてたのか?・・・・なのに
おまえまるでその災難の再現がおまえにおころうとしてる
じゃないか。」
「まあ待ってくれ。」俺はサブの声をさえぎった。
「俺はな。死なせない。どんなことがあっても。どんなてぇ使ってもあいつ
を死なせない。それだけだ。」俺は怒りかどうかわからないが全身に力がみなぎるの
がわかった。
----------------------------------------
翌日:AM10時
今日も、明昌大学は多くの学生で賑わっていた。
俺がキャンパスを歩いていると直哉がきた。
「よう!!!はる!」
「ういっす。」俺は笑顔で手を上げた。
「おまえ地元に戻ったんだって?なにしてきたんだよ。」
「まーいいじゃねーか。それより。おまえに聞きたいことがある。」
俺はそろそろ潮時だと思って例の件を切り出すことにした。
「なんだよ?あらたまってよ。」
「おまえ、ななみとつきあってんのか?」俺は直哉の目を直視して
言った。
しばらく、直哉は黙ったあと照れくさそうに言った。こういうときに
頭をぽりぽり掻くとこも昔から変わっていない。そんなやつをみて俺は
吹き出した。「まーな。つきあってるよ。」
「そっか。よかったじゃねーか。ゼミ同士だし仲良くな。」
そういって俺が立ち去ろうとすると後ろから直哉がこう言った。
「ハル!!負けんじゃねーぞ!知子はぜってー治って日本に
戻ってくる!!!」
俺は直哉のほうをみないでVサインをそら高くかざした。
to be continued…..
水平線 第3話 (3)
2005年11月18日 小説 随筆----------------
俺の傷は不幸中の幸いで、内臓まで刃が達していなかった
ために1週間で退院した。見舞いには家族を含めてこない
でくれと言っていたので入院中は孤独であった。
俺が入院中に院内の中庭を散歩していると、きれいな白髪
が魅力的な初老のじいさんが話しかけてきた。
「あんた、寂しい目をしとるのう。」第一声がそれだか
らたまったもんじゃない。俺はなんと声を返していいか分
からず狼狽していた。するとそのじいさんは畳みかけるよ
うにこう言った。「目に輝きをうしなっとる。」しわがれた
声なのにここまで俺の胸に突き刺さる言葉があったろうか。
鏡の中の俺を覗き込んだ。確かに虚ろな目をしている。
大学に入ってもふらふらして生活していたためか堕落した
生活が身についてしまった。「情けねえ面してんな。」
俺は鏡の自分に言った。
もうすぐ冬が訪れる。知子の手術はうまくいっているのだ
ろうか。遠く離れたアメリカであいつは何を考えているのだ
ろう。「寂しい目をしているか。」俺は皮肉にも似た笑みを
浮かべてタバコに火をつけた。「おまえに言われたくねーよ」
誰にでも向けることない捨て台詞を吐いて俺は東京医科大学を
後にした。
しばらく独りになりたかった俺は実家に戻った。出雲は何ひとつ
変わっていなかった。そんな風景に俺はうれしさと懐かしさを
覚える。
昔学校帰りにみんなと入った駄菓子や。祭りで賑わった公園。
持久走をやった校庭。それらは言葉を返すことなくそこ
に居続ける。
俺が高校の時、トレーニングに使っていた出雲大社の石段
へと向かう。てっぺんまで上ると広大な海が広がっている。
一畑電気鉄道出雲大社前駅で下車し徒歩5分くらいでその
光景に出会えることも何ひとつ変わってない。
遠くをみるとどこまでも無限に広がる水平線が広がっている。
俺は手を掲げその水平線を握ってみた。それでもつかみきれな
い。まるで俺が望んできた人生と置き忘れてきた夢の数ほど
の違いのごとくそれは膨大だった。
ポケットのケータイのバイブがなる。レナからだった。
「春樹君?今どこにいるの?」レナは心配そうに言った。
「水平線の前だよ。」
俺は左腹部のぶり返して来た鈍い痛みを手で覆って
そう言った。
to be continued....
俺の傷は不幸中の幸いで、内臓まで刃が達していなかった
ために1週間で退院した。見舞いには家族を含めてこない
でくれと言っていたので入院中は孤独であった。
俺が入院中に院内の中庭を散歩していると、きれいな白髪
が魅力的な初老のじいさんが話しかけてきた。
「あんた、寂しい目をしとるのう。」第一声がそれだか
らたまったもんじゃない。俺はなんと声を返していいか分
からず狼狽していた。するとそのじいさんは畳みかけるよ
うにこう言った。「目に輝きをうしなっとる。」しわがれた
声なのにここまで俺の胸に突き刺さる言葉があったろうか。
鏡の中の俺を覗き込んだ。確かに虚ろな目をしている。
大学に入ってもふらふらして生活していたためか堕落した
生活が身についてしまった。「情けねえ面してんな。」
俺は鏡の自分に言った。
もうすぐ冬が訪れる。知子の手術はうまくいっているのだ
ろうか。遠く離れたアメリカであいつは何を考えているのだ
ろう。「寂しい目をしているか。」俺は皮肉にも似た笑みを
浮かべてタバコに火をつけた。「おまえに言われたくねーよ」
誰にでも向けることない捨て台詞を吐いて俺は東京医科大学を
後にした。
しばらく独りになりたかった俺は実家に戻った。出雲は何ひとつ
変わっていなかった。そんな風景に俺はうれしさと懐かしさを
覚える。
昔学校帰りにみんなと入った駄菓子や。祭りで賑わった公園。
持久走をやった校庭。それらは言葉を返すことなくそこ
に居続ける。
俺が高校の時、トレーニングに使っていた出雲大社の石段
へと向かう。てっぺんまで上ると広大な海が広がっている。
一畑電気鉄道出雲大社前駅で下車し徒歩5分くらいでその
光景に出会えることも何ひとつ変わってない。
遠くをみるとどこまでも無限に広がる水平線が広がっている。
俺は手を掲げその水平線を握ってみた。それでもつかみきれな
い。まるで俺が望んできた人生と置き忘れてきた夢の数ほど
の違いのごとくそれは膨大だった。
ポケットのケータイのバイブがなる。レナからだった。
「春樹君?今どこにいるの?」レナは心配そうに言った。
「水平線の前だよ。」
俺は左腹部のぶり返して来た鈍い痛みを手で覆って
そう言った。
to be continued....
---------------------
第3話(2)「失くしたもの。真実の扉」
AM 9時
「ハル!早く起きて!!」
「なんだよ!うるせーなー」寝ぼけなまこなうえに、
寝起きの悪い俺は不機嫌そのもの
な状態で知子の声に起こされた。
「今日決勝戦でしょ?」知子は世話がやけるなぁと
漏らしながら言う。「わぁーってるって。」
今日は大事なバスケの試合が控えている。
知子もバレーの練習を休んで応援にきてくれるのだ。
大安寺高校は今日決勝戦だった。とはいっても俺は補欠だが。
だからあまり知子に来てほしいというわけではなかったのだ。
「ユニフォーム洗濯しといたから。」
机の上にはユニフォームがきちんとたたまれて鮮明な青色に包まれていた。大安寺のチームカラーであるクリスタルブルーの透明感が美しい。
俺は「さんきゅ!」
というとクラブカバンにユニフォーム、タオルなどをつめこんでぱんぱんに膨らませて担いだ。
「ちゃんと朝ごはん食べていかなきゃエネルギーでないよ?」
俺はいいんだよといいながらも知子が持ってくる食パンを無理やり口に押し込む。知子はほんと人の世話が好きというかダメ男の俺の面倒をみてくれるしっかりものであった。そう、なにひとつまともにできない俺とは訳が違うのである。慌しい中俺は路上へ飛び出した。振り返ると
2階のベランダから知子がVサインをつくってにこっと無邪気な笑顔を見せた。
俺も、はにかみながら思わず口角をあげ屈託のない笑顔と共にVサインを返した。そして俺たちの間での挨拶代わりになっていた手話で「水平線」を意味するサインをゆっくり右手を伸ばしてかざした。
その形は二人でひとつになるものだ。俺が右手をかざすと彼女も「水平線」を指でしてかざしてみせた。どちらが欠けていてもその「水平線」は完成しない。二人でひとつになるのだ。
一瞥すると俺は笑顔で試合会場に向かうバス停へと全力疾走した。
PM 13時
試合は大安寺の優勢で幕を開いた。相手のチーム、旭丘商業高校、通称旭商も強豪で
ある。俺はというと相変わらずベンチを暖めていた。俺のポジションはガード。あこがれ
のポジションだ。しかし3年の真嶋先輩に比べて俺はルックス、技術、スター性すべてが劣っていた。真嶋先輩が何かする度ギャラリーから黄色い声が沸きあがった。そのたびに
俺は疎外感や孤独感、やりきれない侮辱感を感じた。よくあるドラマのスターのように現実はうまくいかないのだ。知子がいつ来るかそわそわしながら俺は試合を見つめていた。
こんな惨めな姿を見せたくない。そう思っていた。しかし、知子は最後まで現れなかった。しかも、前半は大安寺が圧倒的優勢だったが、センターの三沢先輩が怪我で退場してから一気に形勢旭商に傾き、15点差がからじわじわと2点差まで詰め寄り、試合終了間近にはわずか大安寺が一点リードだけであった。次の瞬間俺は目を疑う。。相手側のガードのしなやかなフォームから繰り出される3ポイントシュート。それが音もなくゴールに吸い込まれていった。まるでその一瞬がモノクロになったかのように。そこで審判の笛がなった。俺はあまりの衝撃的なこの現実を受け止めきれず思わず会場を抜け出した。
「甲田ぁーー!!!こうだぁぁ!!!!!」監督の罵声が俺の背中
に絡みついたが俺は振り返ることもなくとまることもなかった。
そして、その時にケータイが鳴り響いた。ドスの聞いたしかしおだやかな口調の40代くらいの男性が出た。「甲田さんですか?私は、島根大学医学部のものです。米田知子さんのお知り合いですよね?」男性のトーンは低さを保っていた。俺はそうだと言った。
「米田さんは、今日われわれの大学に入院しました。ご家族の方が海外におられて不在らしく連絡がとれなかったものですから、あなたにご連絡させて頂きました。実は・・」
そこで男性が息を飲んだのを受話器越しに感じ取った。
「脊髄性筋萎縮症」というものに
米田さんはおかかりになられました。」
一体何が何だか俺はまったくこの急な展開についていけず頭がショートしそうになる。
「せきずいきんいしゅく??」やっとの思いでそれだけ絞り出して
言った。
「とにかく一度病院にお越しください。」
いきなりの知子の入院通知の電話。
そして主治医の宮元先生から手術しても2割しか成功しない難病であると知らされた。治っても脊髄障害がのこり話したり動いたりすることはかなり困難であるということだ。そしてこの突然の二重の受け入れがたい現実をしょいこ
みきれず現実逃避するため俺は、飲んだ。とにかく飲んだ。
理性は崩壊するぐらい飲み続けた。
そして何もかもに絶望して声が枯れるまで叫んだ。
知子が「いままでありがとう。」
そういって死んでいく場面が浮かんで俺はわぁーー!!
と叫んだ。滴る汗。体中が硬直している。
自分なのに自分ではなく誰かに支配されている
ような感覚だ。この皮膚から突き破って
何か別の生命体がとびだすんじゃないかという強迫観念にかかる。前をうつろなめでみると、白衣を着た20代後半で
美しい看護婦さんが心配そうに
「大丈夫ですか?かなりうなされてたけど・・」
と言ってきた。
どうやら俺は夢をみていたようだ。
「ここは・・・」そう俺はいうと看護婦さんは
「ここは
東京医科大学ですよ。」と優しい口調で返してくれた。
「あなたは何者かに左腹部を刺されて急患で運ばれてきたんです。」そう彼女は言った。
to be continued・・・・
ENDINGテーマ曲「Promise」BY 倖田 くみ
TK談:この曲を聞きながらこのストーリーを読まれると一層
水平線の世界観に近づけます。
第3話(2)「失くしたもの。真実の扉」
AM 9時
「ハル!早く起きて!!」
「なんだよ!うるせーなー」寝ぼけなまこなうえに、
寝起きの悪い俺は不機嫌そのもの
な状態で知子の声に起こされた。
「今日決勝戦でしょ?」知子は世話がやけるなぁと
漏らしながら言う。「わぁーってるって。」
今日は大事なバスケの試合が控えている。
知子もバレーの練習を休んで応援にきてくれるのだ。
大安寺高校は今日決勝戦だった。とはいっても俺は補欠だが。
だからあまり知子に来てほしいというわけではなかったのだ。
「ユニフォーム洗濯しといたから。」
机の上にはユニフォームがきちんとたたまれて鮮明な青色に包まれていた。大安寺のチームカラーであるクリスタルブルーの透明感が美しい。
俺は「さんきゅ!」
というとクラブカバンにユニフォーム、タオルなどをつめこんでぱんぱんに膨らませて担いだ。
「ちゃんと朝ごはん食べていかなきゃエネルギーでないよ?」
俺はいいんだよといいながらも知子が持ってくる食パンを無理やり口に押し込む。知子はほんと人の世話が好きというかダメ男の俺の面倒をみてくれるしっかりものであった。そう、なにひとつまともにできない俺とは訳が違うのである。慌しい中俺は路上へ飛び出した。振り返ると
2階のベランダから知子がVサインをつくってにこっと無邪気な笑顔を見せた。
俺も、はにかみながら思わず口角をあげ屈託のない笑顔と共にVサインを返した。そして俺たちの間での挨拶代わりになっていた手話で「水平線」を意味するサインをゆっくり右手を伸ばしてかざした。
その形は二人でひとつになるものだ。俺が右手をかざすと彼女も「水平線」を指でしてかざしてみせた。どちらが欠けていてもその「水平線」は完成しない。二人でひとつになるのだ。
一瞥すると俺は笑顔で試合会場に向かうバス停へと全力疾走した。
PM 13時
試合は大安寺の優勢で幕を開いた。相手のチーム、旭丘商業高校、通称旭商も強豪で
ある。俺はというと相変わらずベンチを暖めていた。俺のポジションはガード。あこがれ
のポジションだ。しかし3年の真嶋先輩に比べて俺はルックス、技術、スター性すべてが劣っていた。真嶋先輩が何かする度ギャラリーから黄色い声が沸きあがった。そのたびに
俺は疎外感や孤独感、やりきれない侮辱感を感じた。よくあるドラマのスターのように現実はうまくいかないのだ。知子がいつ来るかそわそわしながら俺は試合を見つめていた。
こんな惨めな姿を見せたくない。そう思っていた。しかし、知子は最後まで現れなかった。しかも、前半は大安寺が圧倒的優勢だったが、センターの三沢先輩が怪我で退場してから一気に形勢旭商に傾き、15点差がからじわじわと2点差まで詰め寄り、試合終了間近にはわずか大安寺が一点リードだけであった。次の瞬間俺は目を疑う。。相手側のガードのしなやかなフォームから繰り出される3ポイントシュート。それが音もなくゴールに吸い込まれていった。まるでその一瞬がモノクロになったかのように。そこで審判の笛がなった。俺はあまりの衝撃的なこの現実を受け止めきれず思わず会場を抜け出した。
「甲田ぁーー!!!こうだぁぁ!!!!!」監督の罵声が俺の背中
に絡みついたが俺は振り返ることもなくとまることもなかった。
そして、その時にケータイが鳴り響いた。ドスの聞いたしかしおだやかな口調の40代くらいの男性が出た。「甲田さんですか?私は、島根大学医学部のものです。米田知子さんのお知り合いですよね?」男性のトーンは低さを保っていた。俺はそうだと言った。
「米田さんは、今日われわれの大学に入院しました。ご家族の方が海外におられて不在らしく連絡がとれなかったものですから、あなたにご連絡させて頂きました。実は・・」
そこで男性が息を飲んだのを受話器越しに感じ取った。
「脊髄性筋萎縮症」というものに
米田さんはおかかりになられました。」
一体何が何だか俺はまったくこの急な展開についていけず頭がショートしそうになる。
「せきずいきんいしゅく??」やっとの思いでそれだけ絞り出して
言った。
「とにかく一度病院にお越しください。」
いきなりの知子の入院通知の電話。
そして主治医の宮元先生から手術しても2割しか成功しない難病であると知らされた。治っても脊髄障害がのこり話したり動いたりすることはかなり困難であるということだ。そしてこの突然の二重の受け入れがたい現実をしょいこ
みきれず現実逃避するため俺は、飲んだ。とにかく飲んだ。
理性は崩壊するぐらい飲み続けた。
そして何もかもに絶望して声が枯れるまで叫んだ。
知子が「いままでありがとう。」
そういって死んでいく場面が浮かんで俺はわぁーー!!
と叫んだ。滴る汗。体中が硬直している。
自分なのに自分ではなく誰かに支配されている
ような感覚だ。この皮膚から突き破って
何か別の生命体がとびだすんじゃないかという強迫観念にかかる。前をうつろなめでみると、白衣を着た20代後半で
美しい看護婦さんが心配そうに
「大丈夫ですか?かなりうなされてたけど・・」
と言ってきた。
どうやら俺は夢をみていたようだ。
「ここは・・・」そう俺はいうと看護婦さんは
「ここは
東京医科大学ですよ。」と優しい口調で返してくれた。
「あなたは何者かに左腹部を刺されて急患で運ばれてきたんです。」そう彼女は言った。
to be continued・・・・
ENDINGテーマ曲「Promise」BY 倖田 くみ
TK談:この曲を聞きながらこのストーリーを読まれると一層
水平線の世界観に近づけます。
水平線 第3話(1) 「失くしたもの。真実の扉」
2005年11月14日 小説 随筆------------
俺はレナの数百メートル後ろをさりげなく
追跡していた。地下鉄では同車両にせず、
一つ横の車両に新聞で顔を隠して乗り込んだ。
そして、ホームを出て彼女の高層マンション
までの直線約600m。俺はかたずを飲んで
見守っていた。鼓動が弾けそうになる。
あのエレベーターで乗り合わせた時、一瞬
見た男性の不気味な笑みが俺の心臓をわし
ずかみにしているようだ。彼女は無事にオートロッ
クのところまで玄関の角を曲がり入っていったようだ。
俺は遠くからなので建物の壁に遮られ死角に
なっているので確認できなかったが。。
俺のことを男が気づき今日はレナを敬遠したのか。。
そんな事をおぼろげに思った瞬間、左わき腹に電流が
走る程の痛みを覚えた。痛みというレベルを超えて
神経が破壊されてしまったかのような感覚だ。
俺はレナの入って行った玄関に焦点をあわせていたが、
それはやがて泥水のようにうねっていき視界は灰色に化した。
そして真下を見ると真っ赤な血痕が滴っていた。
俺のわき腹にはおそらくバタフライナイフかなにか鋭利なもの
でつきさされたのだろうか。。思考はそこで途切れた。
電光石火のような一瞬のなか俺はあの男の顔を見た気がした
が記憶は定かではない。
そして俺は乾ききった、潤いのない、救いようのない
アスファルトの上に意思を失ったあやつり人形
かのごとく倒れこんだ。
to be continued....
TKから一言:前日購入したRICOのレザーが暖かくて
ものすごく重宝しています。
ほんとこれはヘビロテやね^^
俺はレナの数百メートル後ろをさりげなく
追跡していた。地下鉄では同車両にせず、
一つ横の車両に新聞で顔を隠して乗り込んだ。
そして、ホームを出て彼女の高層マンション
までの直線約600m。俺はかたずを飲んで
見守っていた。鼓動が弾けそうになる。
あのエレベーターで乗り合わせた時、一瞬
見た男性の不気味な笑みが俺の心臓をわし
ずかみにしているようだ。彼女は無事にオートロッ
クのところまで玄関の角を曲がり入っていったようだ。
俺は遠くからなので建物の壁に遮られ死角に
なっているので確認できなかったが。。
俺のことを男が気づき今日はレナを敬遠したのか。。
そんな事をおぼろげに思った瞬間、左わき腹に電流が
走る程の痛みを覚えた。痛みというレベルを超えて
神経が破壊されてしまったかのような感覚だ。
俺はレナの入って行った玄関に焦点をあわせていたが、
それはやがて泥水のようにうねっていき視界は灰色に化した。
そして真下を見ると真っ赤な血痕が滴っていた。
俺のわき腹にはおそらくバタフライナイフかなにか鋭利なもの
でつきさされたのだろうか。。思考はそこで途切れた。
電光石火のような一瞬のなか俺はあの男の顔を見た気がした
が記憶は定かではない。
そして俺は乾ききった、潤いのない、救いようのない
アスファルトの上に意思を失ったあやつり人形
かのごとく倒れこんだ。
to be continued....
TKから一言:前日購入したRICOのレザーが暖かくて
ものすごく重宝しています。
ほんとこれはヘビロテやね^^
第2話 「あの日の約束」
目覚ましの轟音で俺は叩き起こされた。
あまりにも暴力的な機械音である。。
あの後、レナの家を後にしてからの
記憶は定かではない。パンだけ胃に流し込
むと俺は大学へ向かった。
地下鉄の中。
満員電車。化粧を周りを気にせずに
せっせとするギャル風の女子高生。
バーコードへアのくたくたの鞄を抱えて
いるサラリーマン。
何もかも鬱蒼とした気分になる。
しばらくの辛抱の後俺はここ、代官山
を抜ける。そして俺の明昌大学のキャンパ
スがいつもと変わらないたたずまいで
俺たちを迎える。
「一体これからどうレナと接すれば
いいのだろう。」俺の頭の中はその言葉
で満たされていた。ほかの事が入り込む
余地はなかった。俺のメモリーは少ないのだ。
食堂まで行くと、直哉が何事もなかったか
のように声をかけてきた。「おっす。ハル。
」満面の笑みである。これはナナミとうまく
いったのだろうか。ふとそんな考えが横切る。
「おう。」俺は無愛想に言った。「どうした?
なんか顔色わるいぞ。」それはそのはずだ。
あの後家に帰ったのはAM5時だ。
「直哉、今一人にしてくれねーか?」
俺は突き放すように言った。今はとにかくレナ
の事が最優先だった。「せっかく心配して
やってんのによ。」直哉は舌打ちしてロビーへ
消えていった。
すべての講義が終了すると、俺はレナへ電話
した。3回目のベルでレナは出た。「おう。
俺、春樹。今日おまえの後をつけてないか
はりこむよ。」俺は抑揚のない声でいった。
しかし低音で響くBASSの様なトーンだ。
「ありがとう。気をつけてね。じゃまた
後で。」ツーツー虚しい電子音だけを残して
レナは電話を切った。なにか急いでいる感じ
だった。「おかしいな・・」俺は嫌な予感
を感じ取った。急いで、彼女の部室へ向かった。
案の定、ほかの部員に聞いてみると今日は部活に
出ていないらしい。
「ちっ、なにやってんだ。」俺は思考をマッハで
回転させて走った。あいつがいきそうなところ。。
渋谷。六本木。五反田。巣鴨。様々な風景が目に
スクリーンのごとく映える。
だがとりあえずいつもの溜まり場クラブ
「ASH」へ向かった。クラブへ行くと今日のイベントの
準備が行われていた。知り合いのDJさんにレナは
いるかと聞いたが見てないという。
ゲーセン、109いろいろ回って俺は「あそこしか
ねーか。」と呟いた。下北沢のはすれのほうにある
河原だ。
昔、ここでレナに俺は告られた。まだ大学1回のころだ。
なぜかは分からないがそこにレナがいるきがしたのだ。
「春樹クンのことをずっと見てたの。」あん時の甘い
言葉が交錯する。俺がどうしてOKをださなかったって
みんな思うだろう。だって相手は大学のアイドル的
存在だったのに。俺にはその時好きな人がいた。
というより付き合っていた。しかしその人はまだまだ
現在に至っても認知されていないSMA(脊髄性筋萎縮症)
という病気に俺が高校2年の時にかかった。
彼女の名前は知子と書いてともこと読む。彼女とは
俺が中2のころに出会って、近所づきあいからいつしか
彼女に惹かれるようになった。透き通るような大きい瞳。
眩しい笑顔。彼女はバレー部のアタッカーではつらつ
としていた。高校1年なると知子は島根の中で一番の
強豪、大安寺高校へ入学した。俺はというと。
俺も彼女と同じ高校にはいりたくて偏差値65という
難関の大安寺に入った。必死に勉強して念願かなって
俺は彼女に報告するときに情けねえことに涙してしま
った。いまでは儚い思い出だ。彼女はしだいに弱って
いった。右手が動かなくなり、左手が動かなくなった。
俺は見ていられなかった。。知子とずっと一緒に笑って
いたかったのに。この憤りを一体どこへぶつければいいのか。。
そして彼女は最先端の医療をうけるためアメリカへいった。
俺はバイトしまくって奨学金もすべて彼女の治療費のために
送金した。そして治療の成功の是非の期限の3年後、俺が
大学2年の冬に再会しようと約束をしたのだ。
だから俺は、レナの告白を断った。そう、俺は知子との約束
をこの左胸に刻み込んでいるから。
-------------
河原にいくとやはりレナがいた。彼女は寝そべっていた。
まるで何も心配事のない赤ん坊のような寝顔で。俺は安堵
のせいか急に疲労で崩れ落ちた。
「おい、レナ!!おきろよ。」
レナは寝ぼけなまこで俺のほうを見る。まだ事態が飲みこめて
ないようだ。「おまえ、こんなとこで何してんだよ部活じゃ
なかったのか?」俺は苛立ちを覚えた。
「いいの。今日は体調わるいから。それより、春樹クンちゃんと
見張っててよ。」「分かってる。それじゃ俺は遠くから見守って
から早く家へ帰れよ。」
俺は普段のレナと違う様子にただ戸惑うばかりであった。
to be continued....
目覚ましの轟音で俺は叩き起こされた。
あまりにも暴力的な機械音である。。
あの後、レナの家を後にしてからの
記憶は定かではない。パンだけ胃に流し込
むと俺は大学へ向かった。
地下鉄の中。
満員電車。化粧を周りを気にせずに
せっせとするギャル風の女子高生。
バーコードへアのくたくたの鞄を抱えて
いるサラリーマン。
何もかも鬱蒼とした気分になる。
しばらくの辛抱の後俺はここ、代官山
を抜ける。そして俺の明昌大学のキャンパ
スがいつもと変わらないたたずまいで
俺たちを迎える。
「一体これからどうレナと接すれば
いいのだろう。」俺の頭の中はその言葉
で満たされていた。ほかの事が入り込む
余地はなかった。俺のメモリーは少ないのだ。
食堂まで行くと、直哉が何事もなかったか
のように声をかけてきた。「おっす。ハル。
」満面の笑みである。これはナナミとうまく
いったのだろうか。ふとそんな考えが横切る。
「おう。」俺は無愛想に言った。「どうした?
なんか顔色わるいぞ。」それはそのはずだ。
あの後家に帰ったのはAM5時だ。
「直哉、今一人にしてくれねーか?」
俺は突き放すように言った。今はとにかくレナ
の事が最優先だった。「せっかく心配して
やってんのによ。」直哉は舌打ちしてロビーへ
消えていった。
すべての講義が終了すると、俺はレナへ電話
した。3回目のベルでレナは出た。「おう。
俺、春樹。今日おまえの後をつけてないか
はりこむよ。」俺は抑揚のない声でいった。
しかし低音で響くBASSの様なトーンだ。
「ありがとう。気をつけてね。じゃまた
後で。」ツーツー虚しい電子音だけを残して
レナは電話を切った。なにか急いでいる感じ
だった。「おかしいな・・」俺は嫌な予感
を感じ取った。急いで、彼女の部室へ向かった。
案の定、ほかの部員に聞いてみると今日は部活に
出ていないらしい。
「ちっ、なにやってんだ。」俺は思考をマッハで
回転させて走った。あいつがいきそうなところ。。
渋谷。六本木。五反田。巣鴨。様々な風景が目に
スクリーンのごとく映える。
だがとりあえずいつもの溜まり場クラブ
「ASH」へ向かった。クラブへ行くと今日のイベントの
準備が行われていた。知り合いのDJさんにレナは
いるかと聞いたが見てないという。
ゲーセン、109いろいろ回って俺は「あそこしか
ねーか。」と呟いた。下北沢のはすれのほうにある
河原だ。
昔、ここでレナに俺は告られた。まだ大学1回のころだ。
なぜかは分からないがそこにレナがいるきがしたのだ。
「春樹クンのことをずっと見てたの。」あん時の甘い
言葉が交錯する。俺がどうしてOKをださなかったって
みんな思うだろう。だって相手は大学のアイドル的
存在だったのに。俺にはその時好きな人がいた。
というより付き合っていた。しかしその人はまだまだ
現在に至っても認知されていないSMA(脊髄性筋萎縮症)
という病気に俺が高校2年の時にかかった。
彼女の名前は知子と書いてともこと読む。彼女とは
俺が中2のころに出会って、近所づきあいからいつしか
彼女に惹かれるようになった。透き通るような大きい瞳。
眩しい笑顔。彼女はバレー部のアタッカーではつらつ
としていた。高校1年なると知子は島根の中で一番の
強豪、大安寺高校へ入学した。俺はというと。
俺も彼女と同じ高校にはいりたくて偏差値65という
難関の大安寺に入った。必死に勉強して念願かなって
俺は彼女に報告するときに情けねえことに涙してしま
った。いまでは儚い思い出だ。彼女はしだいに弱って
いった。右手が動かなくなり、左手が動かなくなった。
俺は見ていられなかった。。知子とずっと一緒に笑って
いたかったのに。この憤りを一体どこへぶつければいいのか。。
そして彼女は最先端の医療をうけるためアメリカへいった。
俺はバイトしまくって奨学金もすべて彼女の治療費のために
送金した。そして治療の成功の是非の期限の3年後、俺が
大学2年の冬に再会しようと約束をしたのだ。
だから俺は、レナの告白を断った。そう、俺は知子との約束
をこの左胸に刻み込んでいるから。
-------------
河原にいくとやはりレナがいた。彼女は寝そべっていた。
まるで何も心配事のない赤ん坊のような寝顔で。俺は安堵
のせいか急に疲労で崩れ落ちた。
「おい、レナ!!おきろよ。」
レナは寝ぼけなまこで俺のほうを見る。まだ事態が飲みこめて
ないようだ。「おまえ、こんなとこで何してんだよ部活じゃ
なかったのか?」俺は苛立ちを覚えた。
「いいの。今日は体調わるいから。それより、春樹クンちゃんと
見張っててよ。」「分かってる。それじゃ俺は遠くから見守って
から早く家へ帰れよ。」
俺は普段のレナと違う様子にただ戸惑うばかりであった。
to be continued....
---------
俺が口を開けかけるとレナはそれをさえぎって
こういった。「早くきてほしいの」吐息まじり
に受話器越しから彼女の声が俺の鼓膜を振動させる。
俺は少し間をあけて「わかった。」と言った。
財布、ケータイ最小限の貴重品をポケットに
流し込むと俺はマンションを後にした。
彼女の家には一度だけ一回生のころの学園祭でのチアリーダー
の披露会の打ち上げで訪れていた。記憶は曖昧だったが
地下鉄に乗り込んだ。深夜2時でも東京の渋谷は眠らない。
彼女の家は六本木のクラブの近くのとあるアパートだ。
六本木ともあり正確にはしらないが相当な家賃だろう。
いつか話の流れで彼女の両親は外資系の証券マンであり
彼女は大金持ちの家の令嬢だと聞いたことがある。それと
高校時代の彼女の謎の噂を結びつけることは俺には到底
無理な話であった。
相沢・・・そうポストに表札をだしてあった。か細く
弱々しい文字である。彼女のはつらつとした笑顔とは
かなりギャップがあった。702か。俺は無意識のうちに
そう呟いていた。エレベータに乗り込むと疲れ果てた顔の
30代くらいの男性が乗り込んできた。俺はここの住人でも
ないので挨拶はあえてしなかった。むこうも知らん顔を
した。都会生活によくありがちな希薄な関係ってやつだろうか。
それがここに今現れている気がする。
彼は5階ボタンを押していた。どうやら俺より先に下りるんだ
ろうなと思う。そして5階になるとその男性はそそくさと
出て行った。だが、ポケットからなにか白い紙がひらひらと
舞って俺の足元に落ちた。
俺は落としましたよ!といおうとおもってエレベータを抜け出したが男性は既に長い廊下の角を曲がり消えていた。
仕方ねーな。と俺は呟くと紙切れを手にとってみた。その紙きれは
メモ帳を破ったものである。リング状の形をしたものから無造作に
引きちぎられたのだろう。中身をみた瞬間俺は背筋に悪寒を覚えた。その中身には相沢の身長からスリーサイズそして趣味や好きな
男性のタイプなどがことこまかに書かれていたのである。
「おい。。こいつはなんなんだよ。」俺はそう思った。
いったいあの男性は。。俺はとにかく相沢の部屋へと急いだ。
ベルを鳴らすと相沢は少しやつれた表情で顔をだした。
「急に呼び出しちゃってごめんね。ほんとに着てくれたんだ。」
いつもの笑顔で彼女はそういった。
「まぁ俺も暇だったし、それに最近夜型だからな。」
「何かコーヒーでも飲む?」彼女は気を利かしてくれてそういった。久しぶりの彼女の部屋のぐるりを見渡した。ピンク色がメインでいろいろな人形やチアリーダーでの活躍を称える賞状が飾って
あった。写真はすべて大学でのものであった。前に行ったときは
元カレとの幸せいっぱいの2ショットもあったがそれは剥がされて
いた。「おう。ありがとう。座っていいかな?」相沢がうんというのをキッチン越しに確認して俺はムートンが敷き詰められた高級
そうなソファーに座った。相沢はコーヒーカップのかちゃかちゃ
という無機質な金属音をたてていた。俺はすこし声をあげて
言った。「なぁ。こんな時間に俺を呼ぶなんてことはなんか
用があるんだろ?」しばらく間があって相沢はコーヒーカップを
二つもってきて横に座った。「うん。まーそかな。」
「そーかなっておまえな。」俺はただでさえ心臓の鼓動がドクドク
音をたてているのに彼女は俺を弄ぶ。「タバコ吸っていいか?」
「いいよ。」俺はわりぃなという表情でマイルドセブンをくわえる。しゅぼっというライターの音がコ気味いい。
「ああ。そーだ。これ借りてたCD.ついでだから返すよ。」
俺は昔彼女に借りたDJのMIXCDを差し出した。「あぁわすれてた。
春樹君に貸してたんだった。」そのとき俺はポケットに
さっきの気味の悪い男性の紙切れの感触を指先に感じ取った。
しかし俺は相沢には話さないことにした。
少し沈黙を経て彼女はこういった。「ねぇ。お願いがあるの。」
彼女は上目遣いでそう俺に言った。意識していなかったが彼女は
キャミ一枚ととても肌の露出を強調した服装であった。髪の毛は
おろしてセミロングのストレートヘアになっていた。少しスパイシーな香水のに匂いがつんと俺の鼻をかすめる。「なんだよ?」
俺は彼女の目をみないでいった。下心を見透かされたくなかった
からだろうか。自分ではわからない。ただ見ることができなかった
のだ。彼女は俺の顔に急接近してきた途端に踵をかえし
ソファからたつと7階の出窓のカーテンを無造作に引いた。
「私、2週間前から5階の人につけられてる気がするの。」
俺は彼女の横に行って窓の外をのぞいた。すると光の点滅の
ようなものが見えた。「あれは。あれは望遠鏡じゃねーか?」
誰がみても一目瞭然であった。「なるほど。それで俺におまえの
ボディガードを依頼するためここに呼んだってわけか。」
俺は少しの安堵と残念な気持ちが入り混じった。そして少し
下心があった自分にへこんでいた。「まぁそういうことね。」
「でもなんで俺に頼むんだよ?」身長は184cmあるがお世辞に
もがたいがいいとはいえない俺になぜ彼女は依頼してきたんだろう。そう思って率直な思いを彼女にぶつけてみた。
「春樹クンは私のことを理解してくれてる気がしたの。
あくまで私の勘だけどね。」そういって彼女はカーテンを閉めて
俺の顔を覗き込んだ。いつもの笑顔だがその裏にふとした憂いの
表情が見え隠れする。彼女の闇を俺は感じ取った。
よくミステリアスな女の子はもてるといったことを高校時代
にツレと話していたがまさに彼女はその代表といった感じだった。
俺は自信はなかったが、彼女に近づきたいという思いから首を
縦に振った。「じゃあ話は早いな。」俺は彼女がつけられてる
ということを知っている以上さっきの紙切れを見せることにした。
「これさっき俺が乗り合わせたエレベーターの男が落とした
もんだ。おまえのこと異常なくらい調べ上げてるぜ。」
相沢の顔をみないで俺はそう言い放った。彼女は沈黙しながら
ただ呆然と立っていた。
to be continued....
俺が口を開けかけるとレナはそれをさえぎって
こういった。「早くきてほしいの」吐息まじり
に受話器越しから彼女の声が俺の鼓膜を振動させる。
俺は少し間をあけて「わかった。」と言った。
財布、ケータイ最小限の貴重品をポケットに
流し込むと俺はマンションを後にした。
彼女の家には一度だけ一回生のころの学園祭でのチアリーダー
の披露会の打ち上げで訪れていた。記憶は曖昧だったが
地下鉄に乗り込んだ。深夜2時でも東京の渋谷は眠らない。
彼女の家は六本木のクラブの近くのとあるアパートだ。
六本木ともあり正確にはしらないが相当な家賃だろう。
いつか話の流れで彼女の両親は外資系の証券マンであり
彼女は大金持ちの家の令嬢だと聞いたことがある。それと
高校時代の彼女の謎の噂を結びつけることは俺には到底
無理な話であった。
相沢・・・そうポストに表札をだしてあった。か細く
弱々しい文字である。彼女のはつらつとした笑顔とは
かなりギャップがあった。702か。俺は無意識のうちに
そう呟いていた。エレベータに乗り込むと疲れ果てた顔の
30代くらいの男性が乗り込んできた。俺はここの住人でも
ないので挨拶はあえてしなかった。むこうも知らん顔を
した。都会生活によくありがちな希薄な関係ってやつだろうか。
それがここに今現れている気がする。
彼は5階ボタンを押していた。どうやら俺より先に下りるんだ
ろうなと思う。そして5階になるとその男性はそそくさと
出て行った。だが、ポケットからなにか白い紙がひらひらと
舞って俺の足元に落ちた。
俺は落としましたよ!といおうとおもってエレベータを抜け出したが男性は既に長い廊下の角を曲がり消えていた。
仕方ねーな。と俺は呟くと紙切れを手にとってみた。その紙きれは
メモ帳を破ったものである。リング状の形をしたものから無造作に
引きちぎられたのだろう。中身をみた瞬間俺は背筋に悪寒を覚えた。その中身には相沢の身長からスリーサイズそして趣味や好きな
男性のタイプなどがことこまかに書かれていたのである。
「おい。。こいつはなんなんだよ。」俺はそう思った。
いったいあの男性は。。俺はとにかく相沢の部屋へと急いだ。
ベルを鳴らすと相沢は少しやつれた表情で顔をだした。
「急に呼び出しちゃってごめんね。ほんとに着てくれたんだ。」
いつもの笑顔で彼女はそういった。
「まぁ俺も暇だったし、それに最近夜型だからな。」
「何かコーヒーでも飲む?」彼女は気を利かしてくれてそういった。久しぶりの彼女の部屋のぐるりを見渡した。ピンク色がメインでいろいろな人形やチアリーダーでの活躍を称える賞状が飾って
あった。写真はすべて大学でのものであった。前に行ったときは
元カレとの幸せいっぱいの2ショットもあったがそれは剥がされて
いた。「おう。ありがとう。座っていいかな?」相沢がうんというのをキッチン越しに確認して俺はムートンが敷き詰められた高級
そうなソファーに座った。相沢はコーヒーカップのかちゃかちゃ
という無機質な金属音をたてていた。俺はすこし声をあげて
言った。「なぁ。こんな時間に俺を呼ぶなんてことはなんか
用があるんだろ?」しばらく間があって相沢はコーヒーカップを
二つもってきて横に座った。「うん。まーそかな。」
「そーかなっておまえな。」俺はただでさえ心臓の鼓動がドクドク
音をたてているのに彼女は俺を弄ぶ。「タバコ吸っていいか?」
「いいよ。」俺はわりぃなという表情でマイルドセブンをくわえる。しゅぼっというライターの音がコ気味いい。
「ああ。そーだ。これ借りてたCD.ついでだから返すよ。」
俺は昔彼女に借りたDJのMIXCDを差し出した。「あぁわすれてた。
春樹君に貸してたんだった。」そのとき俺はポケットに
さっきの気味の悪い男性の紙切れの感触を指先に感じ取った。
しかし俺は相沢には話さないことにした。
少し沈黙を経て彼女はこういった。「ねぇ。お願いがあるの。」
彼女は上目遣いでそう俺に言った。意識していなかったが彼女は
キャミ一枚ととても肌の露出を強調した服装であった。髪の毛は
おろしてセミロングのストレートヘアになっていた。少しスパイシーな香水のに匂いがつんと俺の鼻をかすめる。「なんだよ?」
俺は彼女の目をみないでいった。下心を見透かされたくなかった
からだろうか。自分ではわからない。ただ見ることができなかった
のだ。彼女は俺の顔に急接近してきた途端に踵をかえし
ソファからたつと7階の出窓のカーテンを無造作に引いた。
「私、2週間前から5階の人につけられてる気がするの。」
俺は彼女の横に行って窓の外をのぞいた。すると光の点滅の
ようなものが見えた。「あれは。あれは望遠鏡じゃねーか?」
誰がみても一目瞭然であった。「なるほど。それで俺におまえの
ボディガードを依頼するためここに呼んだってわけか。」
俺は少しの安堵と残念な気持ちが入り混じった。そして少し
下心があった自分にへこんでいた。「まぁそういうことね。」
「でもなんで俺に頼むんだよ?」身長は184cmあるがお世辞に
もがたいがいいとはいえない俺になぜ彼女は依頼してきたんだろう。そう思って率直な思いを彼女にぶつけてみた。
「春樹クンは私のことを理解してくれてる気がしたの。
あくまで私の勘だけどね。」そういって彼女はカーテンを閉めて
俺の顔を覗き込んだ。いつもの笑顔だがその裏にふとした憂いの
表情が見え隠れする。彼女の闇を俺は感じ取った。
よくミステリアスな女の子はもてるといったことを高校時代
にツレと話していたがまさに彼女はその代表といった感じだった。
俺は自信はなかったが、彼女に近づきたいという思いから首を
縦に振った。「じゃあ話は早いな。」俺は彼女がつけられてる
ということを知っている以上さっきの紙切れを見せることにした。
「これさっき俺が乗り合わせたエレベーターの男が落とした
もんだ。おまえのこと異常なくらい調べ上げてるぜ。」
相沢の顔をみないで俺はそう言い放った。彼女は沈黙しながら
ただ呆然と立っていた。
to be continued....
1 2