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第3話(2)「失くしたもの。真実の扉」
AM 9時
「ハル!早く起きて!!」
「なんだよ!うるせーなー」寝ぼけなまこなうえに、
寝起きの悪い俺は不機嫌そのもの
な状態で知子の声に起こされた。
「今日決勝戦でしょ?」知子は世話がやけるなぁと
漏らしながら言う。「わぁーってるって。」
今日は大事なバスケの試合が控えている。
知子もバレーの練習を休んで応援にきてくれるのだ。
大安寺高校は今日決勝戦だった。とはいっても俺は補欠だが。
だからあまり知子に来てほしいというわけではなかったのだ。
「ユニフォーム洗濯しといたから。」
机の上にはユニフォームがきちんとたたまれて鮮明な青色に包まれていた。大安寺のチームカラーであるクリスタルブルーの透明感が美しい。
俺は「さんきゅ!」
というとクラブカバンにユニフォーム、タオルなどをつめこんでぱんぱんに膨らませて担いだ。
「ちゃんと朝ごはん食べていかなきゃエネルギーでないよ?」
俺はいいんだよといいながらも知子が持ってくる食パンを無理やり口に押し込む。知子はほんと人の世話が好きというかダメ男の俺の面倒をみてくれるしっかりものであった。そう、なにひとつまともにできない俺とは訳が違うのである。慌しい中俺は路上へ飛び出した。振り返ると
2階のベランダから知子がVサインをつくってにこっと無邪気な笑顔を見せた。
俺も、はにかみながら思わず口角をあげ屈託のない笑顔と共にVサインを返した。そして俺たちの間での挨拶代わりになっていた手話で「水平線」を意味するサインをゆっくり右手を伸ばしてかざした。
その形は二人でひとつになるものだ。俺が右手をかざすと彼女も「水平線」を指でしてかざしてみせた。どちらが欠けていてもその「水平線」は完成しない。二人でひとつになるのだ。
一瞥すると俺は笑顔で試合会場に向かうバス停へと全力疾走した。
PM 13時
試合は大安寺の優勢で幕を開いた。相手のチーム、旭丘商業高校、通称旭商も強豪で
ある。俺はというと相変わらずベンチを暖めていた。俺のポジションはガード。あこがれ
のポジションだ。しかし3年の真嶋先輩に比べて俺はルックス、技術、スター性すべてが劣っていた。真嶋先輩が何かする度ギャラリーから黄色い声が沸きあがった。そのたびに
俺は疎外感や孤独感、やりきれない侮辱感を感じた。よくあるドラマのスターのように現実はうまくいかないのだ。知子がいつ来るかそわそわしながら俺は試合を見つめていた。
こんな惨めな姿を見せたくない。そう思っていた。しかし、知子は最後まで現れなかった。しかも、前半は大安寺が圧倒的優勢だったが、センターの三沢先輩が怪我で退場してから一気に形勢旭商に傾き、15点差がからじわじわと2点差まで詰め寄り、試合終了間近にはわずか大安寺が一点リードだけであった。次の瞬間俺は目を疑う。。相手側のガードのしなやかなフォームから繰り出される3ポイントシュート。それが音もなくゴールに吸い込まれていった。まるでその一瞬がモノクロになったかのように。そこで審判の笛がなった。俺はあまりの衝撃的なこの現実を受け止めきれず思わず会場を抜け出した。
「甲田ぁーー!!!こうだぁぁ!!!!!」監督の罵声が俺の背中
に絡みついたが俺は振り返ることもなくとまることもなかった。
そして、その時にケータイが鳴り響いた。ドスの聞いたしかしおだやかな口調の40代くらいの男性が出た。「甲田さんですか?私は、島根大学医学部のものです。米田知子さんのお知り合いですよね?」男性のトーンは低さを保っていた。俺はそうだと言った。
「米田さんは、今日われわれの大学に入院しました。ご家族の方が海外におられて不在らしく連絡がとれなかったものですから、あなたにご連絡させて頂きました。実は・・」
そこで男性が息を飲んだのを受話器越しに感じ取った。
「脊髄性筋萎縮症」というものに
米田さんはおかかりになられました。」
一体何が何だか俺はまったくこの急な展開についていけず頭がショートしそうになる。
「せきずいきんいしゅく??」やっとの思いでそれだけ絞り出して
言った。
「とにかく一度病院にお越しください。」
いきなりの知子の入院通知の電話。
そして主治医の宮元先生から手術しても2割しか成功しない難病であると知らされた。治っても脊髄障害がのこり話したり動いたりすることはかなり困難であるということだ。そしてこの突然の二重の受け入れがたい現実をしょいこ
みきれず現実逃避するため俺は、飲んだ。とにかく飲んだ。
理性は崩壊するぐらい飲み続けた。
そして何もかもに絶望して声が枯れるまで叫んだ。
知子が「いままでありがとう。」
そういって死んでいく場面が浮かんで俺はわぁーー!!
と叫んだ。滴る汗。体中が硬直している。
自分なのに自分ではなく誰かに支配されている
ような感覚だ。この皮膚から突き破って
何か別の生命体がとびだすんじゃないかという強迫観念にかかる。前をうつろなめでみると、白衣を着た20代後半で
美しい看護婦さんが心配そうに
「大丈夫ですか?かなりうなされてたけど・・」
と言ってきた。
どうやら俺は夢をみていたようだ。
「ここは・・・」そう俺はいうと看護婦さんは
「ここは
東京医科大学ですよ。」と優しい口調で返してくれた。
「あなたは何者かに左腹部を刺されて急患で運ばれてきたんです。」そう彼女は言った。
to be continued・・・・
ENDINGテーマ曲「Promise」BY 倖田 くみ
TK談:この曲を聞きながらこのストーリーを読まれると一層
水平線の世界観に近づけます。
第3話(2)「失くしたもの。真実の扉」
AM 9時
「ハル!早く起きて!!」
「なんだよ!うるせーなー」寝ぼけなまこなうえに、
寝起きの悪い俺は不機嫌そのもの
な状態で知子の声に起こされた。
「今日決勝戦でしょ?」知子は世話がやけるなぁと
漏らしながら言う。「わぁーってるって。」
今日は大事なバスケの試合が控えている。
知子もバレーの練習を休んで応援にきてくれるのだ。
大安寺高校は今日決勝戦だった。とはいっても俺は補欠だが。
だからあまり知子に来てほしいというわけではなかったのだ。
「ユニフォーム洗濯しといたから。」
机の上にはユニフォームがきちんとたたまれて鮮明な青色に包まれていた。大安寺のチームカラーであるクリスタルブルーの透明感が美しい。
俺は「さんきゅ!」
というとクラブカバンにユニフォーム、タオルなどをつめこんでぱんぱんに膨らませて担いだ。
「ちゃんと朝ごはん食べていかなきゃエネルギーでないよ?」
俺はいいんだよといいながらも知子が持ってくる食パンを無理やり口に押し込む。知子はほんと人の世話が好きというかダメ男の俺の面倒をみてくれるしっかりものであった。そう、なにひとつまともにできない俺とは訳が違うのである。慌しい中俺は路上へ飛び出した。振り返ると
2階のベランダから知子がVサインをつくってにこっと無邪気な笑顔を見せた。
俺も、はにかみながら思わず口角をあげ屈託のない笑顔と共にVサインを返した。そして俺たちの間での挨拶代わりになっていた手話で「水平線」を意味するサインをゆっくり右手を伸ばしてかざした。
その形は二人でひとつになるものだ。俺が右手をかざすと彼女も「水平線」を指でしてかざしてみせた。どちらが欠けていてもその「水平線」は完成しない。二人でひとつになるのだ。
一瞥すると俺は笑顔で試合会場に向かうバス停へと全力疾走した。
PM 13時
試合は大安寺の優勢で幕を開いた。相手のチーム、旭丘商業高校、通称旭商も強豪で
ある。俺はというと相変わらずベンチを暖めていた。俺のポジションはガード。あこがれ
のポジションだ。しかし3年の真嶋先輩に比べて俺はルックス、技術、スター性すべてが劣っていた。真嶋先輩が何かする度ギャラリーから黄色い声が沸きあがった。そのたびに
俺は疎外感や孤独感、やりきれない侮辱感を感じた。よくあるドラマのスターのように現実はうまくいかないのだ。知子がいつ来るかそわそわしながら俺は試合を見つめていた。
こんな惨めな姿を見せたくない。そう思っていた。しかし、知子は最後まで現れなかった。しかも、前半は大安寺が圧倒的優勢だったが、センターの三沢先輩が怪我で退場してから一気に形勢旭商に傾き、15点差がからじわじわと2点差まで詰め寄り、試合終了間近にはわずか大安寺が一点リードだけであった。次の瞬間俺は目を疑う。。相手側のガードのしなやかなフォームから繰り出される3ポイントシュート。それが音もなくゴールに吸い込まれていった。まるでその一瞬がモノクロになったかのように。そこで審判の笛がなった。俺はあまりの衝撃的なこの現実を受け止めきれず思わず会場を抜け出した。
「甲田ぁーー!!!こうだぁぁ!!!!!」監督の罵声が俺の背中
に絡みついたが俺は振り返ることもなくとまることもなかった。
そして、その時にケータイが鳴り響いた。ドスの聞いたしかしおだやかな口調の40代くらいの男性が出た。「甲田さんですか?私は、島根大学医学部のものです。米田知子さんのお知り合いですよね?」男性のトーンは低さを保っていた。俺はそうだと言った。
「米田さんは、今日われわれの大学に入院しました。ご家族の方が海外におられて不在らしく連絡がとれなかったものですから、あなたにご連絡させて頂きました。実は・・」
そこで男性が息を飲んだのを受話器越しに感じ取った。
「脊髄性筋萎縮症」というものに
米田さんはおかかりになられました。」
一体何が何だか俺はまったくこの急な展開についていけず頭がショートしそうになる。
「せきずいきんいしゅく??」やっとの思いでそれだけ絞り出して
言った。
「とにかく一度病院にお越しください。」
いきなりの知子の入院通知の電話。
そして主治医の宮元先生から手術しても2割しか成功しない難病であると知らされた。治っても脊髄障害がのこり話したり動いたりすることはかなり困難であるということだ。そしてこの突然の二重の受け入れがたい現実をしょいこ
みきれず現実逃避するため俺は、飲んだ。とにかく飲んだ。
理性は崩壊するぐらい飲み続けた。
そして何もかもに絶望して声が枯れるまで叫んだ。
知子が「いままでありがとう。」
そういって死んでいく場面が浮かんで俺はわぁーー!!
と叫んだ。滴る汗。体中が硬直している。
自分なのに自分ではなく誰かに支配されている
ような感覚だ。この皮膚から突き破って
何か別の生命体がとびだすんじゃないかという強迫観念にかかる。前をうつろなめでみると、白衣を着た20代後半で
美しい看護婦さんが心配そうに
「大丈夫ですか?かなりうなされてたけど・・」
と言ってきた。
どうやら俺は夢をみていたようだ。
「ここは・・・」そう俺はいうと看護婦さんは
「ここは
東京医科大学ですよ。」と優しい口調で返してくれた。
「あなたは何者かに左腹部を刺されて急患で運ばれてきたんです。」そう彼女は言った。
to be continued・・・・
ENDINGテーマ曲「Promise」BY 倖田 くみ
TK談:この曲を聞きながらこのストーリーを読まれると一層
水平線の世界観に近づけます。
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