水平線 第3話 (3)
2005年11月18日 小説 随筆----------------
俺の傷は不幸中の幸いで、内臓まで刃が達していなかった
ために1週間で退院した。見舞いには家族を含めてこない
でくれと言っていたので入院中は孤独であった。
俺が入院中に院内の中庭を散歩していると、きれいな白髪
が魅力的な初老のじいさんが話しかけてきた。
「あんた、寂しい目をしとるのう。」第一声がそれだか
らたまったもんじゃない。俺はなんと声を返していいか分
からず狼狽していた。するとそのじいさんは畳みかけるよ
うにこう言った。「目に輝きをうしなっとる。」しわがれた
声なのにここまで俺の胸に突き刺さる言葉があったろうか。
鏡の中の俺を覗き込んだ。確かに虚ろな目をしている。
大学に入ってもふらふらして生活していたためか堕落した
生活が身についてしまった。「情けねえ面してんな。」
俺は鏡の自分に言った。
もうすぐ冬が訪れる。知子の手術はうまくいっているのだ
ろうか。遠く離れたアメリカであいつは何を考えているのだ
ろう。「寂しい目をしているか。」俺は皮肉にも似た笑みを
浮かべてタバコに火をつけた。「おまえに言われたくねーよ」
誰にでも向けることない捨て台詞を吐いて俺は東京医科大学を
後にした。
しばらく独りになりたかった俺は実家に戻った。出雲は何ひとつ
変わっていなかった。そんな風景に俺はうれしさと懐かしさを
覚える。
昔学校帰りにみんなと入った駄菓子や。祭りで賑わった公園。
持久走をやった校庭。それらは言葉を返すことなくそこ
に居続ける。
俺が高校の時、トレーニングに使っていた出雲大社の石段
へと向かう。てっぺんまで上ると広大な海が広がっている。
一畑電気鉄道出雲大社前駅で下車し徒歩5分くらいでその
光景に出会えることも何ひとつ変わってない。
遠くをみるとどこまでも無限に広がる水平線が広がっている。
俺は手を掲げその水平線を握ってみた。それでもつかみきれな
い。まるで俺が望んできた人生と置き忘れてきた夢の数ほど
の違いのごとくそれは膨大だった。
ポケットのケータイのバイブがなる。レナからだった。
「春樹君?今どこにいるの?」レナは心配そうに言った。
「水平線の前だよ。」
俺は左腹部のぶり返して来た鈍い痛みを手で覆って
そう言った。
to be continued....
俺の傷は不幸中の幸いで、内臓まで刃が達していなかった
ために1週間で退院した。見舞いには家族を含めてこない
でくれと言っていたので入院中は孤独であった。
俺が入院中に院内の中庭を散歩していると、きれいな白髪
が魅力的な初老のじいさんが話しかけてきた。
「あんた、寂しい目をしとるのう。」第一声がそれだか
らたまったもんじゃない。俺はなんと声を返していいか分
からず狼狽していた。するとそのじいさんは畳みかけるよ
うにこう言った。「目に輝きをうしなっとる。」しわがれた
声なのにここまで俺の胸に突き刺さる言葉があったろうか。
鏡の中の俺を覗き込んだ。確かに虚ろな目をしている。
大学に入ってもふらふらして生活していたためか堕落した
生活が身についてしまった。「情けねえ面してんな。」
俺は鏡の自分に言った。
もうすぐ冬が訪れる。知子の手術はうまくいっているのだ
ろうか。遠く離れたアメリカであいつは何を考えているのだ
ろう。「寂しい目をしているか。」俺は皮肉にも似た笑みを
浮かべてタバコに火をつけた。「おまえに言われたくねーよ」
誰にでも向けることない捨て台詞を吐いて俺は東京医科大学を
後にした。
しばらく独りになりたかった俺は実家に戻った。出雲は何ひとつ
変わっていなかった。そんな風景に俺はうれしさと懐かしさを
覚える。
昔学校帰りにみんなと入った駄菓子や。祭りで賑わった公園。
持久走をやった校庭。それらは言葉を返すことなくそこ
に居続ける。
俺が高校の時、トレーニングに使っていた出雲大社の石段
へと向かう。てっぺんまで上ると広大な海が広がっている。
一畑電気鉄道出雲大社前駅で下車し徒歩5分くらいでその
光景に出会えることも何ひとつ変わってない。
遠くをみるとどこまでも無限に広がる水平線が広がっている。
俺は手を掲げその水平線を握ってみた。それでもつかみきれな
い。まるで俺が望んできた人生と置き忘れてきた夢の数ほど
の違いのごとくそれは膨大だった。
ポケットのケータイのバイブがなる。レナからだった。
「春樹君?今どこにいるの?」レナは心配そうに言った。
「水平線の前だよ。」
俺は左腹部のぶり返して来た鈍い痛みを手で覆って
そう言った。
to be continued....
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