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BARを出るとそこには暗黙の世界が広がっていた。まさにこれはスラム街といわんばかり
の状態だ。黒いストリートには飢え死にしそうなもの、ヤク切れをおこして
痙攣しているやつ。このひんやりと冷たい空気の中で擦り切れたジーンズ
のまま俺は歩き出す。BARから漏れる喧騒はやがて遠ざかっていく。
大通りにでた。ブランドのフラッグショップがたっている。この路地裏と
大通りの格差はすごかった。アメリカの資本主義の縮図のような気がした。
競争に勝つもの、負けたもの。むこうではブランド物を身につけてLVに
はいっていくカップル。俺はこのなりでは門前払いだなと思いウィンドウ
ショッピングを楽しむ。人種のるつぼのこのストリートではみな個性的
なファッションに身を包んでいる。あてもなく俺はストリートを浮浪者
のように徘徊していた。
 するとケータイがなった。ここはアメリカなのになぜ。と思い俺は
しばし戸惑いつつポケットを探る。ディスプレイをみるとレナだった。
俺は怪訝な表情で「もしもし。」と言う。
「春樹君?」
「おう。」俺は不思議な感覚に包まれながら答える。
「実は、私いまNYにいるの。」
「まじかよ。」俺はあまりにも唐突な出来事に耳を疑う。
「前言ったけどさ。ほら。お父さん外資系だから今NYにいるの。
それで、こないだ春樹君にあのこと話してきっちりお父さんと
話し合いたいと思ってこの冬休み中にいこうと思ってて。
春樹君もアメリカにいくって
いってたからね。もしかしてつながるかなと思ったの。突然ごめんね。」一応お互いヴォーダフォンだったのでケータイは
通じたというわけだ。
「なるどほどね。」俺は受話器越しにうなずきな
がらいった。そしてこう付け加えた。
「レナ。ちゃんといってこいよ。いままで溜め込んでたこと。」
「・・・・うん。ありがとう。」
「なんかあればまた電話しろよな。」俺は穏やかに言った。
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翌日。こっちに来て日課になった知子との面会。
もうあの日にはもどれないのだろうか。
手を握り締めても声をかけても反応はない。
ベッドの横の椅子に座って知子の寝顔を静寂
の中で俺は見つめていた。

そのとき、ノックがした。俺が返事をするとICUの例の重く分厚い
扉が開きがしゃんと閉じる。何度聞いてもこの音は俺に不快感を
与える。それはDr.コヴィー氏だった。Drは話があると俺に言った。
静かに強い口調で。まっすぐ俺はDrの目をみた。
Drが言った。メディカルスクールの中でもまだ臨床段階の最先端の
技術を凝縮した手術を知子にうけさせないかと。さらにDrは続ける。
この手術は成功率が2割。大脳から運動筋へいく情報を阻害する神経
をねこそぎ切除するのだ。成功すれば日常生活に支障をきたさない
程度にまで回復すると言った。しかし、失敗すれば。。
Drはそこで一呼吸おいた。そしてDrはこう続けた。
知子は永遠に帰らぬ人となるだろうと。
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俺は迷い続けた。知子に意識があれば確認がとれるのに。
俺が決めてしまっていいのか。両親は音信普通という状態で
すべて判断は俺にゆだねられていた。
一体どうすれば。。しかし、このままいっても一生知子は植物
人間状態なのだ。
俺は病院の屋上へいった。緑豊かな素晴らしい景色が広がっていた。
タバコに火をつける。そして俺はベンチに寝そべった。
いつの間にDrが横に立っていた。
「人間は決断しなければならないときが来る。春樹。君のもっとも
愛し愛されている人の重大な決断をするのは厳しいだろう。でもこれは君たち
二人の闘いであり、われわれは手術という医療行為しかできない。」
Drは屋上の柵をつかみ遠くを見つめていった。
「あのコを救えるのは、春樹。君しだいだ。」Drは俺のほうを振り返り
笑顔をみせて去っていった。
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PM6時
屋上で散々頭を抱えて俺は悩み続けた。
まるで考える人になったかのように。
失敗したらどうするんだ。。俺は一生
後悔することになるんだ。手術をしなけれ
ば治ることもないが死ぬこともない。
だが人間らしい生活を送れない。
「知子。。。おまえならどーすんだよ。」
俺は昔のあいつとの会話を思い返しながらそう
吐き出した。
ポケットのケータイのバイブ振動が脚に伝わった。
レナか!?俺はケータイをすぐさま出した。
通話ボタンをおすとレナが息をきらして受話器
にでる。
「春樹君!!お願い。来てほしいの。こっちに。」
NYに独りぼっちのレナの声はか細かった。
俺はわかったといい地下鉄へと向かった。

                     To be continued…..

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