水平線

2005年12月11日
「FIght for your light」
第4話(5)
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レナの父親は、いかにも仕事人間といういでたちであった。レナは固まったまま
動こうとしなかった。そう。彼女の父親は女を連れていたのだ。
前にレナに聞いた愛人の話が俺の胸の鼓動を高鳴らす。
父親はロビーからやがてこちらへと近づいてくる。そして、何事もなかったように
エレベーターへとむかう。その一部始終を俺たちは遠くの角から見ていた。
 レナは相変わらず固まったままだ。
「レナ?」俺は優しくそう囁く。
「いかないのか?」現実を目の当たりにしたレナには優しささへ残酷なものに
なるのだろうか。俺は知る術もない。
「・・・きて。ほしい。」カスレタ声で彼女はそう俺に投げかけた。
「・・・・・」レナと親父の問題に俺が出て行っていいのか。
第一俺たちは付き合っているわけでもないのに。
しかし、俺はレナの気持ちもしらずに、愛人といちゃついている彼女の
父親に憤りに似たものを覚えた。
7階まで俺たちは先回りした。そして部屋の前に立っていた。
まるで門番のように。
コツっコツっ足音が談笑と共に近づいてくる。俺は早なる鼓動を抑える
ことができなかった。
そしてやがてレナの父親は俺たちの存在に気づいた。
緊迫した空気が流れる。
「・・・・・」父親は何も言わずに黙ったままだ。視線を泳がせながら。
だが愛人を離そうとはしなかった。
「なにかきっかけをつくるしかないな。」俺は心の中でそうつぶやいた。
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「レナのお父さんですよね?」俺は穏やかに言った。
男は張り付いた笑顔を浮かべた。それは泥人形のように薄汚く
そしてあまりにも人工的なものであった。
咳払いをして「そうだ。」と一言しぶるように彼は言った。
レナは黙って下をむいたままだった。
「・・・・俺は彼女の大学の友人です。ですからこんな
ことをいう立場にはないと思います。でも・・」
「でもなんだというんだ?」彼はいらだつようにさえぎった。

「・・・彼女の気持ちをもっと考えてやってください。」
「毎月金なら振り込んでるし、レナに不自由な思いを
させたことなどない。」彼はそう突き放すように言う。
「・・お金の問題じゃないと俺は思います。」
支離滅裂だった。そしてまた重い沈黙が起きようとした
刹那レナが半ば半狂乱に言った。
「金、金って。金でなんでも解決したみたいな顔しないでよ!!!」
父親は黙る。そして愛人は薄汚いものを見るかのような冷笑を
うっすらと浮かべている。
「金がほしいんだろ?」レナの父親は茶封筒をポケットからだした。
中には万札がはいっていた。おそらく100枚は最低でもあるだろう。
それをレナのポケットに突っ込んだ。
「私は、おまえに不自由な思いをさせたつもりはない。繰り返すが
それだけだ。もうかえってくれ。」そういってホテルのドアのオート
キーカードをかざした。
黙り込む俺。そしてなす術のない俺。こんな無力な俺をどうやって
表現していいかすら分からない。

・    ・・・・
・    「こんなものいらないわよ!!!」
・    その刹那。万札が舞った。レナが茶封筒を
 廊下の窓へと投げ捨てた。万札は俺たちに語りかけることも
 まく宙をひらひらと舞っていた。
「こんな汚れたお金なんて誰がうけとるっていうのよ。
口座にだってふりこんでこないで!!!!」
レナは泣きながら叫んだ。

彼女の声は父親に届いたかは分からない。
オートロックに閉ざされた要塞のようなドアごしに
彼女は崩れ落ちた。
俺は彼女にかける言葉を必死に探していた。

ENDING曲:マニックストリートプリーチャーズ
      「The Everlasting」

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